Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

さらっと出てきてバシッときめてくすがすがしさ:THE LIPSMAX 9/5@下北沢440

THE LIPSMAXは女性3人構成のロカビリーロックバンド。
ロカビリーがなんたるかは詳しく知らないけど、とにかくこのバンドはロカビリーにあたるらしい。
音数少ないのに各々かっこいい音と声をアウトプットするバンド。


Devil's Sisters / THE LIPSMAX - LIVE@SHIMOKITAZAWA GARDEN
Vo&Gt:LOVE
Ba&Cho:TOKIE
Dr&Cho:Miyoko Yamaguchi

彼女らを知ったきっかけは、以前働いていた会社で流れていた東京FM。
LOVEちゃんがお昼の帯の番組DJを担当していて、SHELLYみたいな、落ち着いたクレバーな話し声が好きだった。
仕事片手間に彼女がバンドを組んだのが耳に入って、Youtubeで観て見たらいい感じで以前もライブに行ったことがある。
その後は自分の都合が合わなかったり、そもそも本人たちが各方面で多忙でライブ数が少なかったのもあったりで、今回はかなり久々のライブだった。

20時スタート、少し押してた。
けどOpening DJがいてそれに合わせてすでにノリノリで踊ってる人がいたので、それを聴いたり眺めたりビール飲んだりしていたら、わりとナチュラルに3人が登場しすぐ演奏。

全体の雑感として、TOKIEさんのベースは音がデカいとかいうことじゃなくて、輪郭がしっかりあるから芯が通った音がするなぁと。
エレベはそんなことないけど、ウッドベースはぼやぼやしてにじむような音の人が多い印象なので、詳しいことはわからないけどやっぱり上手なんだろうなと思った。

LOVEちゃんは、ラジオDJのときはそうでもなかったけど、MCのときの声が高くて少し末っ子感があった。
歌声は引出がいろいろある感じで、男前な声も出せれば猫なで声も出せるし、個人的に好きなのは出る音域だけどあえて裏声出しているときの声。

美代子さんは髪がさらに短くなられて、どこまでいっちゃうのかしらーと思ったり。
正直ライブ中は他二人に目も耳も奪われることが多いんだけど、叩きながらのハモもいい感じ(このバンドの曲はがっつりハモる感じでもないし、かといって空気でもいけないし、逆に難しいと思う)。
CD聴いてると、生よりもドラムの音の粒がちゃんと聴こえて、転がるような勢いを感じてそれも楽しい。


【Sumertime Blues】
のっけから知らない曲、というかYoutubeで見れる以外の音源は持ってなかったので大半は初聴きの曲だった。
ここがこのバンドの不思議なところで、どの曲も耳馴染みがいいもんだから、帰りに買ったCDをちらっと聴いただけで「あぁこれやってた、これもやってた」と思い出せるのだった。
まあこの曲はCDに入ってないから忘れちゃったんだけど。
曲名から調べるに、THE WHOのカバーなのかな、とりあえず美代子さんセレクトのカバーと言ってた気がする。

【Fantasy in Blue】
陽気なナンバー。
今回みたいにウェルカムソングにもいいし、お別れのフェアウェルソング的な感じでアンコールにあってもいいような、陽気さの中にセンチメンタルさも感じる曲。
他の曲でもそうなんだけど、TOKIEさんの派手さを押し出しはしないけど適度にリズミカルなベースが心地よい。

【I Know What You Did】
んー、忘れちゃった。
わりと聞き取れる簡単な英語の歌詞かなぁということだけなんとなく覚えている。

【Sugar High!!!】
コール&レスポンスある感じの曲。
よくわからないけどSugar High! Sugar Sugar High!!とマネして言っていた。
クライマーズハイならぬお砂糖ハイってことなのね、かわいかった。

【Perfect】
こちらはTOKIEさんセレクトだったか。
そういう話をしていた気がするのに演奏や歌声のことは忘れてしまった。
さすがにこの曲名だけでは何の曲のカバーだったかを思い出すことはできないわ。

【Sweet Chilli Chilli】
西海岸の解放感とけだるさを感じる一曲。
オールディーズが好きなおじさまにもウケがよさそう。

【Y-O-U】
ベースもドラムもギターも、もちろん歌も、かっこよかった!
女性が乱暴に「YOU」に向かって語りかけるナンバー。
乱暴なんだけど、最後の最後「あなただけ」と女性の本音と弱みが見え隠れするような歌詞と声のリンクが素敵。

【Fever】
これはLOVEちゃんセレクト、Peggy Leeのカバー。
LOVEちゃんが「熱、フィーバー!」っていうくだりにハマってしまったらしく、何度も同じくだりを繰り返して曲紹介。
指ぱっちんとTOKIEさんのムーディーなベースが大人の雰囲気を醸し出してて、これはバーでウィスキー飲みながら聴きたいと思った。

【Risky Whisky】
私がウィスキーのこと考えたのはたまたまだろうけど、次の曲はこれ。
LOVEちゃんの素敵な裏声が何度も聴ける、サビ前も大人な女性のしっとりした声が聴ける、個人的お気に入り曲。

【Utano Mamani】
心のままに~みたいなことを歌った曲。
おだやかなロックソングっぽいのに、途中でシャウトや軽いコール&レスポンスがあるのが面白い。

【J.T.Beat】
いろんなところを旅したい曲、サビ前とサビの曲調の感じが違って面白い。
前半はちょっとラップっぽい感じで、サビで開放して広く遠く伸びていくような音と歌詞。
LOVEちゃんはこれを歌いながら北朝鮮の昨今のあれこれが一瞬頭をよぎったらしく、悔しがっていた。

【Meow Meow】
CDを買って気に入って特にリピートしているものの一つ。
リズム隊がかっこよくて、一定リズムでカッティングするギターもパワーコードっぽくて、全体的に音が厚い感じ。
ライブ中はかっこよさに気をとられて気が付かなかったけど、最後は「meow meow meow~(ミャオウ ミャオウ ミャオウ~)♪」と言ってるのだとCD聴いて知った。

【Long tall sally】
残念ながらひとつも覚えていることがない曲。

【Poor Little Billionaire】
カウベルが登場した時点でこの曲だと思った。
ロカビリーがなんたるかわかってないけど、ロカビリーっぽいなと私が思っている曲その1。
美代子さんの転がるようなドラミングが楽しめるありがたいナンバー。

【Devil's Sisters】
LIPSMAXといえばコレ、と私が思っている曲。
3人のかっこいいところがそれぞれ入っていて、やっぱり聴きごたえがある。
TOKIEさんのソロもあるし、美代子さんのドラムは振れ幅があっていろいろ楽しめる。
あと、LOVEちゃんがラストに「Thank you for calling!」って言うのもかっこよくて好き。

【The Lip Smacks】
本編ラスト、これもLIPSMAXといえばコレ、シリーズ。
LIPSMAXとLip Smacksをかけてておもしろい。
これもラストに向けての迫力が素晴らしいのと、シメ前のTOKIEさんのベースがおいしい。

【Miss Bunny】
本編終了の拍手がそのままアンコールの拍手になってアンコール待ち、1~2分拍手してたらバンドTシャツを衣装の上から着て戻ってきた面々。
ラストは投げつけるような歌と、テンション上げにかかってくるリズム隊が楽しい曲。
これも、よくわからないながらに「ロカビリーっぽい」と思った。
CDの中でこれもよくリピして聴いている。


主観どころか私しかわからない程度にしか残せてないけど、とりあえず平日夜定時ダッシュに成功してのTHE LIPSMAXライブ、最高でした!

素敵ボイスにたくさん出会えた日:ビューティフル 8/26千秋楽

歌手・キャロルキングの公私のストーリーをもとにつくられた、ジュークボックスミュージカル「ビューティフル」。
実はこれも「パレード」同様、観るつもりじゃなかったシリーズ…
でも、千秋楽かけこみで観れて良かった。


ミュージカル『ビューティフル』8/26(土)千穐楽カーテンコール

プリンシパルたちは作詞家や作曲家の役で、ふつうの作品ならバックでコーラスしたりダンスしたりのアンサンブルたちが当時のスター歌手たち。
そのアンサンブルナンバーがどれもこれも歌うまで良いと聞いて、歌好きな身としてはやっぱり行っとくか、と思って行ったのでした。
歌うまいだけじゃなくて素敵な声をお持ちだなぁという方を何人も発見できたので、貴重な機会を逃さなかった自分をほめたい。笑

ストーリーは公式でもご覧いただくとして。
http://www.tohostage.com/beautiful/
先に歌や音楽以外の感想をザザっと。

キャロルが若かった頃はつくり手と歌い手が分かれているのが当たり前だったこと、どんな曲を誰に歌ってもらうかがキーだったこと。
そして時代の変化と自身の変化から、自分の曲を最も表現できるのは自分と気づき歌い始め、最終的にカーネギーホールでのライブまでたどり着くこと。
ミュージカルって日常とはかけ離れたところの出来事のように見えることも多いけど、この作品は各々がいろいろな公私の喜びや苦難を経て生きてる様を、ファンタジーやスペクタクルではなくドキュメンタリーのような感じで見せてくれた。
すごく私たちの日常に寄り添った作品だったなと思う。

セットは、ピアノをステージ中央に置いて上手半分を明るめに照らしてキャロル&ジェリー夫妻、下手半分をローライトな感じにしてシンシア&バリー夫妻で区切ったシーンはおもしろかった。
ピアノは2夫妻で1つなので、ジェリーもバリーもピアノのところにきているけど、あたかもピアノは壁を背に配置されてるかのように別夫妻の部屋とは別物として見せていた。

それとライティングも良くて、休暇で4人が訪れた雪山のシーンでは降り注ぐ雪がきれいに舞って見えたり、ラストのカーネギーホールでのライブではキャロルを後ろから照らすいくつかのスポットライトがクレッシェンドみたいに強くなったりしていた。
特に後者はライブおよび本編の最後の最後というのもあり、なんだか目頭が熱くなったりして。

あとは衣装やウィッグも見ていて楽しかった。
柄物ワンピースだったシュレルズが数秒死角に入って戻ってくるだけで、ピンクのゴージャスなドレスになったのにはびっくり!
シュレルズはブルーグリーンのドレスもあってそっちもきれいで、あとはベビーシッターがロコモーションの衣装になるのはミュージカル版シンデレラのドレスと同じ仕組みだろうけどやっぱり一瞬で楽しかった。
シンシアの衣装はどれもスタイル良くて、キャロルの地味な衣装とは一貫して対になっていた。

男性陣は、当時の格好をして当時の髪型をして当時のダンスをすると、本国本家のドリフターズじゃなくて日本のお笑いの方のドリフターズに見えてちょっと笑ってしまった。
でも描写としては間違ってないと思うし、日本人がやるとどうしてもああなると思う。

マイナスというほどではないんだけど、気になったのは、かなり場面転換が多く感じたことかな。
別に不自然ではなかったからダメとも思わなかったけど、あんなに何度もピアノや人を行き来させなくても済む流れにもできたのでは?と。
アメリカナイズな感じを意図的に出したようなセリフと早口なのもあり、バタバタとせわしない印象が残った。

雑感はこのあたりにして、本題である素敵ボイスたちの感想、印象的だったこの3人をpick!

・伊礼彼方さん@ジェリー・ゴフィン(キャロルの夫)
平原綾香さん@キャロル・キング
・菅谷真理恵さん@Up Townのソロ

まずはこの日歌った途端に私の興味関心を一気にもっていった、ジェリー(キャロルの夫)役の伊礼彼方さん。
ざらつきがなくてあまりにも自然で、少しだけミステリアスさもしくは影が漂うような声、彼が歌い出した途端に私の耳はダンボに。
もはや「声を出す」ということさえしていなくて口を開けただけで音が出てくるんじゃないか、体とマイクとスピーカーが一体化してるんじゃないかというくらいの音ストレスのなさ。

残念ながらソロをがっつり聴かせるナンバーがなかったのだけど、私の耳を、いや心をかっさらったのはUp On The Loof。
後半はドリフターズが歌うから途中までしか伊礼さんじゃないんだけど、「高いところにのぼると心が落ち着くんだ」と先述の素敵ボイスで歌われたら耳と心に半端ない量のマイナスイオンが流れ込んだ気がした。
二幕のPleasant Valley Sundayも歌ってたけど、そちらは退屈から逃れたいという鬱憤を歌っていたから、歌い方がだいぶちがって、こちらはロックバンドでフロントできそうな声量と余裕さ。
劇中でなくてライブでいろんな歌声をもっと堪能したいところ。

あと歌じゃないけど、彼のジェリーの役作りはけっこう好きだった。
クスリやって浮気しちゃうダメ男ではあるんだけど、彼なりの考えや軸があるというか。
常にいいものや新しいものを追い求めて刺激や情報を取り入れようとしていただけで、キャロルや家族を裏切りたいと思ってそれらをしてたわけではなかった。

なので私には全然悪いやつには見えなくて、よくいるアーティストのひとりだなと思った。
アーティストってこだわり強かったり「かくあるべし」を持ってるイメージがあるから。
ラストにカーネギーホールの楽屋でキャロルに会いに来るシーンがあったけど、彼がいたからキャロルはいろんな曲がつくれて、そして自分が歌うという選択に辿り着いたんだなと思ったら、なんだかダメ男ジェリーがとってもいとおしかった。

…伊礼さんだけで尺使っちゃったけど、主役キャロルの平原さん。
学生の頃はライブによく行ってて、今回久しぶりな彼女の生歌を聴いた。
若い頃の喋り声や歌声がとても可愛らしくて、It Might as Well Rain Until Septemberのプル♪プル♪プル♪プル♪っていう雨の音もとい声が特に愛らしかった。
彼女がふつうに歌うと落ち着きのあるハスキー寄りの声というのを知っているから、年代によって声音を変えているのがよくわかった。

対して、一幕最後のOne Fine Day、二幕で自分が歌うと決めた(You Make Me Feel Like) A Natural Woman、ラストのBeautiful、カーテンコールのI Feel the Earth Move。
これらは本人の本領発揮という感じ。
クラシックの印象強かったけど、ソウルっぽい拍の取り方も感じて迫力あり。
歌うまいのでさながらほんとにライブに行ったみたいでとても満足感高かった!

ただこれを言っていいのか微妙だけど、本人の歌唱であってキャロルの歌唱ではなかったかな。
キャロル本人はかすれ気味の声のカントリーな歌い方をする人で、大人な味のあるかっこよさは感じても大声量でスコーンと聴かせて大迫力!というのは少し違うかなと。
でもラストかつライブという設定だし本人に寄せて歌って盛り上がりに欠ける…というのももったいない話なので、本人の本領発揮モードで良かったなと私は思った。

あとはアンサンブルの方、菅谷真理恵さん。
シュレルズのときは声は特定できなかったんだけど、身のこなしはカンパニー全体の中でも特に目を引いたかも。
昔の振り付けなので今どきのハードなダンスみたいな動きは全然ないんだけど、手足の優雅さというのか、なんならカーテンコールでの立ち姿まで、いつ見てもきれいでついつい目で追ってしまった。
きっとダンスがお得意な方なんだろうなぁ、もっと見てみたい。

そしてこの方の声を唯一ちゃんと特定して聴けたのが、Uptown。
バリーとシンシア夫妻のつくった曲を、バンドをバックにボーカル彼女で歌う曲。
あまり長くないし1曲まるまる歌に集中するようにできているシーンじゃなかった気がするので細かくは思い出せないんだけど、とにかくこの方の声はドラマチック!

歌い始めたところから、「やばいこれはこの後すごく感動する声が聴ける予感がする…」って思って、そして思った通りだった。
なんといったらいいのだろう、MISIAの歌声に似てるのかな、なんだか音をなぞるだけじゃない何かを感じる声だったのだよねぇ。
イメージとしては地響きのような、上っ面じゃない、もっと深いところから響かせるような声がとっても素敵と思ったのでした。

pickの3人は以上だけど、歌うまい人たくさんいたのでもうちょっと触れたい。
まず、シュレルズのメインボーカル、高城奈月子さん。
Will You Love Me Tomorrowのしっとり大人な女性の声がとても素敵で。
あとたぶんOne Fine Dayでは高音のコーラスをしてたと思われるけど、そちらも音がピシッと当たってて気持ち良かった。
そのOne Fine Dayではエリアンナさんがジャネール・ウッズとしてメインをとってて、こちらもとても素敵。
歌唱がパワフルで、でも余裕があって、あと手足も長いしお化粧も似合ってて美人さんだなあと。
歌がうまい方って、ブラックの方の役やっても平然とブラックっぽい歌い方してくれて嬉しいし説得力がある。

あと最後に、バリー・マン役の中川晃教さん、やっと拝見&拝聴できた。
歌うまオバケと聞いていたのでずっと見て見たかった彼、たしかに歌うまオバケだった。
前は歌手をしていたのね~知らなかった。
それを差っ引いても尋常じゃないくらい歌がうまいことがわかった。

でも今回は歌よりも、コミカルな演技がとてもハマっていて楽しかった!
病気持ちでちょっと空気が読めなくて金儲けのこともすぐに口に出しちゃうキャラクター、間違うとただのヤな奴になりそうだけど、彼のはそのあたりのさじ加減が絶妙。
バリー&シンシアカップルは登場するたびに面白かった。

観てない人にはなんの魅力も伝わらない気しかしないけど、ゆるしてほしい。
なぜなら素敵ボイスが多くて、しかし各々が持ち歌短くて、ちゃんと描写できるほど耳が覚えてられなかった。
起承転結はもちろんあるけどミュージカルにしてはそれらがあっさりしてはいるので、何度も何度も観たいかというと正直そうでもないかも。

でも、歌唱力の洪水にのまれたいわーというときや、あの人の歌が聴きたいわーというとき、やっていてくれたら軽率に観に行ってしまいそう。笑
再演予定は今のところないようだけどまたあったら観に行きたいし、今回発見した素敵ボイスさんたちを他の場所でももっと観たいなぁと思える、とても収穫ある観劇でした。

【キャスト】
キャロル・キング平原綾香
リー・マン中川晃教
ジェリー・ゴフィン:伊礼彼方
シンシア・ワイル:ソニン
ドニー・カーシュナー:武田真治
ジーニー・クライン:剣幸

伊藤広祥/神田恭兵/長谷川開/東山光明/山田元/山野靖博/清水泰雄(SWING)
エリアンナ/菅谷真理恵/高城奈月子/MARIA-E/ラリソン彩華/綿引さやか/原田真絢(SWING)

「カジモドだけが心清らか」説に違和感を覚える話

ウィキッドと同じくらい曲もストーリーもどはまりしたミュージカル、ノートルダムの鐘。
観てないなら人生損してるから一度は観たほうがいい。
イマイチだと思ったらそれで最後にしたらいいし、心に刺さるものがあれば折に触れてまた観たらいい。


Making of "The Hunchback of Notre Dame" Studio Cast Recording

ノートルダム、もうほんとに音楽が豊かだし観るたびに何かしら戒めを感じるしウィキッドと共通点がすごく多いと思う。
自分の決断と無名の群衆の反応によって人生や運命は動いていくのだと。
だから絶えず自分の決断に責任を持つこと、人々の操作不能な反応にのまれるかもしれないこと。
私はそういうようなことを観るたびに思う。

そんなミュージカルであるノートルダムの鐘、ネットをはじめ様々なところでたくさんの解釈を見かける。
そしてその中でも、舞台上でのとある演出に絡む「解釈」に私は違和感がある。

※今さらだけど大いなるネタバレあり。

カジモト役者は冒頭「ふつうの青年」として舞台に現れ、観客の目の前で顔を墨で汚しコブを背中に装着し、顔と体を歪ませて「カジモド」になるという演出がある。
そうして一度カジモドになったら、ずっと汚れた顔で歪んだ顔体のまま。
要するに「醜い」。
そしてフィナーレで民衆たちが顔を墨で汚し体を歪ませる一方で、カジモドだけが墨を落としたきれいな顔になり、まっすぐな姿勢で舞台中央に立ち上がる。

この演出についてネットで見かけることがあるのは、「カジモドだけが心清らかだからきれいな顔なんだ」という解釈。
正解・不正解とかないと思うし、こう思った人が多いことにも不思議はない。
私も部分的にその解釈はわかるから。
ただ、それよりももっと複雑でやり場のない気持ちがするのだ。

だってカジモドはフロロー・エスメラルダ・フィーバスたちに出会い共に過ごしたことで、いろんな経験をしいろんなことを感じるようになった。
だからエスメラルダと一緒にいたいという気持ちばかりが強くなって周りが見えなくなるし、フロローに不信感を持つのはまだしも、最終的には彼を殺してしまう。
いかなる理由であれ彼がまっさらで真っ白だとはとても思えないし、むしろなんの制御もきかなくなって狂気にのまれてダークサイドに堕ちたともいえる。

だから私から観ればあの演出は、こちらを動揺させ揺さぶるもの。
今まで人々がふつうの人間でカジモドが人ならざるもの(怪物)に見えていたのに、ラストの演出でそれが逆転するといとも簡単にものの見え方は180℃反転するし、人の善し悪しなんて紙一重だという衝撃。
自分も人なんだから彼らと同じじゃないかという絶望に似た救われない気持ち。

ちなみにノートルダムは海外ではまだ観ていなくて、東京で海宝さん、飯田さん、田中さんそれぞれのカジモドを観た。
飯田さんのカジモドは、ぼんやりとした子どものような青年がしかるべき経験と感情を得ていくような見せ方だった。
田中さんのカジモドは、異形の生まれつきゆえどこか最初から諦観して空虚な青年が、エスメラルダに出会うことで束の間人間らしい温度感を垣間見せるような表現だった。
彼らの場合は終わりの演出で「人ならざるもの(怪物)の姿から人間の姿に戻してもらえた」ように見えるので、少しフィナーレでも安らぎを感じる部分があった。

一方で初めて観たカジモドが海宝さんだったからというのはあるかもしれないけど、最も印象深く衝撃が大きかったのは彼のカジモド。
青年⇔カジモドのギャップがひときわ大きく、スタート時点のカジモドがとてもおびえた青年で、他人に影響を与えたり傷つけたりすることから最も距離を置いているカジモドだった。
だからフィナーレでそれを覆してしまったこと、そして「ふつうの青年」に戻ったときの見え方がスケルトンな抜け殻みたいだったこと、「響け鐘よノートルダム」と全員で歌っているときになんだか人の業を担ったキリストのような険しい顔をしていたことがあいまって、哀れで救われないような後味だった。
レミゼを観終わった後の、人のせいとも時代のせいともつかぬ、言い様のない感覚に似ている。

ほんと、最初に観たのが海宝さんカジモドで彼の解釈と歌と演技にとても感動したから、こんなにノートルダムに深入りした。
来年の横浜公演おそらく出てくれるんじゃないかなと思ってるけど、一般発売でチケット取れるかしら…(超絶不安)。
あぁ。
私に彼のカジモドをもう一度観る日が、コンサートじゃなくて劇中で歌うのを聴ける日が、ちゃんときますように。

よりどりみどりの女神ボイス:Celtic Woman

ケルティックウーマンといえば、たぶん一番話題になったのは、荒川静香さんがフィギュアのエキシビションかなにかで使ったときかな。
曲はYou Raise Me Up、私もたぶんこのときに彼女らを知った。
2000年代に中心に聴いていたので最近のメンバーやラインナップにはちょっと疎くなってきたと思う。
でも今もよく聴くし、疲れているときは涙が出るほど癒される。


Celtic Woman - You Raise Me Up


ケルティックウーマンを簡単に説明すると、アイルランド出身者中心のアイリッシュ音楽・ケルト音楽を歌う女性たちのグループ。
メンバーは個々人の公私の都合により流動的に変わる。
ヴァイオリンの一種?仲間?のフィドルを演奏するフィドラーも必ずいる。
ちなみにアイリッシュがなんたるか、ケルトがなんたるかはよく知らない。
そんな曲調の音楽、という程度しか。

メンバーが変わっても魅力的だなと思う曲もあれば、この曲はこの人が歌ってこそ!と思う曲もある。
たとえば前者だとエンヤが歌ったことでも有名なOrinoco Flow,Spanish Lady,ニルシンラ(Níl Sé'n Lá)とか、個々の声よりも集合の声の音階とパーカッションが活かされるような曲がそうかなと思う。

逆に歌声固定で聴きたいものもけっこうあって、2010年代まで長く在籍してたリサ(Lisa Kelly)とクロエ(Chloë Agnew)は特にそういうものが多い。
単純にCD音源がその人というのもあるけど、やはりそれぞれの声の良さが突出しているのだとも思う。

まずリサ、彼女の声は何を歌っても輝かしい感じで、「ハッピー」というには違和感だけど「幸福」というのが相応しい凛とした声だ。
悲しい歌や怒りの歌を聴いたことがないせいかもしれないけど、そんな気がする。
Danny Boyなんかは悲しいといえば悲しいかもしれないけど、慈愛というほうがしっくりくる。
そんな彼女の声がとても良いのはYou Raise Me Up,The Voice,Send Me a Songなど。


Lisa Kelly The Voice


そしてクロエ。
彼女の声はボーイソプラノを凌ぐレベルでピュアで、天使の女の子が歌ってるのではないかと思うほどやわらかで可愛らしい、夢みたいな声だ。
ケルティックウーマンを離れてからはそういう歌い方をする動画を見かけない(というか動画の母数が少ない)けど、ベースにはやっぱりそういう声があると思う。
最近のほうが逆に少し天使から人間に寄って、リアリティのある声かなとも。
Ave Maria, Someday, Over the Rainbowなど、やっぱりこの人の声がいいと思うもの多数。
夢見心地のような浮世離れした声なので、ディズニーとも相性がいいような。


Celtic Woman - When You Believe


あと在籍期間は短かったけど、ヘイリー(Hayley Westenra)。
彼女は日本だとたぶんドラマのエンディングかなにかでAmazing Grace歌ったのが有名かも。
リサケリーも神々しい声だけど、ヘイリーも分類的にはその類だと思う。
リサよりも神秘寄りで、強いて言うなら女神が諭すような声に聴こえる。
Scarborough Fairくらいしか彼女メインでガッツリ聴いた曲はないんだけど、これはやはり彼女の霧がかって神秘的な様子の声が適任かと。
やわらかく包むようにハモるので、メインでないときはいい意味で存在感がなくなる。


最近のメンバーだとイーハ(Éabha McMahon)がとても印象的な声。
ハスキーといえばハスキーなんだけど、なんといったらいいのか、すごくなめらかで何人分もの声を出してるんじゃないかという音の層があるように聴こえる。
前メンバーだとオーラ(Órla Fallon)が系統としては近いかと。
リフというか音のアレンジにしゃくり?揺らし?が多いのでケルト色が強く聴こえるようにも思う。
声の特性から低音ハモリが多いけど、彼女がいると聖母がベース支えてくれてるような、そんなイメージのハーモニー。
セリーヌディオンのMy Heart Will Go Onのカバーでは一番最初に歌っている人です。


Celtic Woman - My Heart Will Go On (1 Mic 1 Take)


他にも何人もいるんだけど…ピックアップして書けるほど声を聴きこんでいないのですみませんが割愛。
美女だらけのCeltic Womanの中でも、個人的に好きなのはアレックス(Alex Sharpe)、リン(Lynn Hilary)のふたりかな。
二人とも一見クールビューティー系だけど、アレックスは笑うと口元の開きが女優の賀来千賀子さんに似てる気がしてならないし、八重歯気味で可愛い。
リンは伏し目流し目な感じでしっとりセクシーな美しさ。
あとは美人にも可愛い系にも見えるのはタラ(Tara McNeill)。
フィドルはずっとマレード(Máiréad Nesbitt)が躍動感あるパフォーマンスをしていたけど、タラはベーシックなパフォーマンスな感じ。

そんなこんな思うままに好きなところを書いていったCeltic Woman、来月6年ぶりの来日!
もちろん発売日にチケットをとって(平日だから有休もとって)、最新の彼女らを堪能しにいく予定。
個々の声に特徴があってそれぞれ個性があると思うのはやっぱり2000年代なんだけど、グループとしてのハモりやバック音楽との調和・ダンスは見ごたえがあるのではないかなと予想。
オーディエンスが楽しむのはもちろん、本人たちも久々の(もしかしたら初めての)日本を満喫してもらえますように。

昔は情報量の多い声、今はどこか目指すところが明確な声:Salyu

ここのところライブに行く回数が減っているのだけど、それでも平均かそれ以上にライブには行っていると思う。
好きな歌手やバンドはいくつかいる中で、しばらく離れていても戻ってきて聴きたくなって、聴いたら聞いたで「やっぱりすごい」と思う声の持ち主。
そのうちの一人はSalyuだ。


Salyu「name」

特に高校~大学の頃よく聴いた彼女の歌。
たぶんTVでnameを聴いてとてもツボにはまったんだったと思う。
そのうちBank BandのTo Uもすごく流行って、バンド版もSalyu版もよく聴いた。
彼女があまりキラキラ全開の太陽のような見た目やキャラでなく、ちょっと影のある謎めいた印象だったこともイメージ通りだった。

nameは、AメロBメロのぼんやりした少女みたいな声とサビの切実で爆発するような叫び声と、振れ幅が大きい。
彼女の声でおもしろいなと思うのは、爆発するような叫び声になるとき、うるさくなるんじゃなくて、輪郭が強くなって線が太くなる感じがするところ。
サビで爆発する感じの曲はいくつもあって、name同様「たまらんなぁ」と思うのは、Dramatic Ironyとか、LIBERTYとか、わりと最近だとRAINもそう。

nameは2006年の曲、RAINは2015年の曲。
どちらもサビの強さは似たところがあるけど、nameのサビ手前では、声にいろんな情報が含まれて少し濁ったような声が特徴的だと思う。
nameの入ってるアルバムの1つ前のlandmarkのうち、特にlandmarkとアイアムは声が混沌としてこわくて当時はいつも避けていた。
曲調がダークで圧倒的というのもあるし、Salyuのぼんやりした声が墨みたいに脳みそや気持ちを黒く覆う感じがした。
今ではそれもコミで聴けるようになったけど、当時は本当にいつもその2曲が流れるとiPodを飛ばしていた。


Salyu - THE RAIN (from ALBUM「Android & Human Being」)

それでも彼女の歌を聴いていたのはやっぱり声が素晴らしいからで、こわいこわいという思いをチャラにするように癒しの曲もあった。
体温、Tower、アイニユケル、最近だと青空なんかもそういう類。
あとはソロじゃないけどfeat. WISEでやっていたMirrorとか。

基本的につんざくような声を聴いたことがないし、すごく音が外れて困惑したこともない。
しばらく前に行った東京フィルとのコンサートは、音響の問題か中音域が聴こえてこなくて少し不完全燃焼だったけど、基本的に安定感がある。
よくライブに行っていた頃は特に、行った甲斐があったと心底思わせてくれるような神秘的な声を聴かせてくれた。

最近はあまり行っていないからわからないけど、彼女の声の源は変わっていないかなという感じがする。
サビでよくみられる強くてやわらかい声はよりその様子が強くなったと思うし、前よりも目指すイメージが強くなってハッキリした声になったように聴こえる(私には)。
変わったとしたら、落ち着いた声で歌うといろんなものが含まれて濁って聴こえた声が影をひそめたところ。
変わったわけじゃなくて、声を覆っていた外側の何かがそぎ落とされたような感じ。

濁った声がこわかったのは確かなんだけど、それがなくなったのもなんだかちょっとさみしい気もしていて。
その難しい声もSalyuの味のひとつだったと思うのだ。
あれからいくつも曲を出したしSalyu×Salyuとかもやったし、今はその濁りを超えて別の次元にいる感じ。

全体的に、以前より軽く外交的な声と感じていて。
外側に、普遍に近づきすぎると、せっかくの神秘的な声の伸びがただの高音になってしまうんじゃないかという余計な心配がよぎっている。
こんな心配は要らないだろうと思うけど、これからも彼女の強くてやわらかな声は残っていてほしいなぁ。
また久しぶりにライブに行こうかしら。