Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

素敵ボイスにたくさん出会えた日:ビューティフル 8/26千秋楽

歌手・キャロルキングの公私のストーリーをもとにつくられた、ジュークボックスミュージカル「ビューティフル」。
実はこれも「パレード」同様、観るつもりじゃなかったシリーズ…
でも、千秋楽かけこみで観れて良かった。


ミュージカル『ビューティフル』8/26(土)千穐楽カーテンコール

プリンシパルたちは作詞家や作曲家の役で、ふつうの作品ならバックでコーラスしたりダンスしたりのアンサンブルたちが当時のスター歌手たち。
そのアンサンブルナンバーがどれもこれも歌うまで良いと聞いて、歌好きな身としてはやっぱり行っとくか、と思って行ったのでした。
歌うまいだけじゃなくて素敵な声をお持ちだなぁという方を何人も発見できたので、貴重な機会を逃さなかった自分をほめたい。笑

ストーリーは公式でもご覧いただくとして。
http://www.tohostage.com/beautiful/
先に歌や音楽以外の感想をザザっと。

キャロルが若かった頃はつくり手と歌い手が分かれているのが当たり前だったこと、どんな曲を誰に歌ってもらうかがキーだったこと。
そして時代の変化と自身の変化から、自分の曲を最も表現できるのは自分と気づき歌い始め、最終的にカーネギーホールでのライブまでたどり着くこと。
ミュージカルって日常とはかけ離れたところの出来事のように見えることも多いけど、この作品は各々がいろいろな公私の喜びや苦難を経て生きてる様を、ファンタジーやスペクタクルではなくドキュメンタリーのような感じで見せてくれた。
すごく私たちの日常に寄り添った作品だったなと思う。

セットは、ピアノをステージ中央に置いて上手半分を明るめに照らしてキャロル&ジェリー夫妻、下手半分をローライトな感じにしてシンシア&バリー夫妻で区切ったシーンはおもしろかった。
ピアノは2夫妻で1つなので、ジェリーもバリーもピアノのところにきているけど、あたかもピアノは壁を背に配置されてるかのように別夫妻の部屋とは別物として見せていた。

それとライティングも良くて、休暇で4人が訪れた雪山のシーンでは降り注ぐ雪がきれいに舞って見えたり、ラストのカーネギーホールでのライブではキャロルを後ろから照らすいくつかのスポットライトがクレッシェンドみたいに強くなったりしていた。
特に後者はライブおよび本編の最後の最後というのもあり、なんだか目頭が熱くなったりして。

あとは衣装やウィッグも見ていて楽しかった。
柄物ワンピースだったシュレルズが数秒死角に入って戻ってくるだけで、ピンクのゴージャスなドレスになったのにはびっくり!
シュレルズはブルーグリーンのドレスもあってそっちもきれいで、あとはベビーシッターがロコモーションの衣装になるのはミュージカル版シンデレラのドレスと同じ仕組みだろうけどやっぱり一瞬で楽しかった。
シンシアの衣装はどれもスタイル良くて、キャロルの地味な衣装とは一貫して対になっていた。

男性陣は、当時の格好をして当時の髪型をして当時のダンスをすると、本国本家のドリフターズじゃなくて日本のお笑いの方のドリフターズに見えてちょっと笑ってしまった。
でも描写としては間違ってないと思うし、日本人がやるとどうしてもああなると思う。

マイナスというほどではないんだけど、気になったのは、かなり場面転換が多く感じたことかな。
別に不自然ではなかったからダメとも思わなかったけど、あんなに何度もピアノや人を行き来させなくても済む流れにもできたのでは?と。
アメリカナイズな感じを意図的に出したようなセリフと早口なのもあり、バタバタとせわしない印象が残った。

雑感はこのあたりにして、本題である素敵ボイスたちの感想、印象的だったこの3人をpick!

・伊礼彼方さん@ジェリー・ゴフィン(キャロルの夫)
平原綾香さん@キャロル・キング
・菅谷真理恵さん@Up Townのソロ

まずはこの日歌った途端に私の興味関心を一気にもっていった、ジェリー(キャロルの夫)役の伊礼彼方さん。
ざらつきがなくてあまりにも自然で、少しだけミステリアスさもしくは影が漂うような声、彼が歌い出した途端に私の耳はダンボに。
もはや「声を出す」ということさえしていなくて口を開けただけで音が出てくるんじゃないか、体とマイクとスピーカーが一体化してるんじゃないかというくらいの音ストレスのなさ。

残念ながらソロをがっつり聴かせるナンバーがなかったのだけど、私の耳を、いや心をかっさらったのはUp On The Loof。
後半はドリフターズが歌うから途中までしか伊礼さんじゃないんだけど、「高いところにのぼると心が落ち着くんだ」と先述の素敵ボイスで歌われたら耳と心に半端ない量のマイナスイオンが流れ込んだ気がした。
二幕のPleasant Valley Sundayも歌ってたけど、そちらは退屈から逃れたいという鬱憤を歌っていたから、歌い方がだいぶちがって、こちらはロックバンドでフロントできそうな声量と余裕さ。
劇中でなくてライブでいろんな歌声をもっと堪能したいところ。

あと歌じゃないけど、彼のジェリーの役作りはけっこう好きだった。
クスリやって浮気しちゃうダメ男ではあるんだけど、彼なりの考えや軸があるというか。
常にいいものや新しいものを追い求めて刺激や情報を取り入れようとしていただけで、キャロルや家族を裏切りたいと思ってそれらをしてたわけではなかった。

なので私には全然悪いやつには見えなくて、よくいるアーティストのひとりだなと思った。
アーティストってこだわり強かったり「かくあるべし」を持ってるイメージがあるから。
ラストにカーネギーホールの楽屋でキャロルに会いに来るシーンがあったけど、彼がいたからキャロルはいろんな曲がつくれて、そして自分が歌うという選択に辿り着いたんだなと思ったら、なんだかダメ男ジェリーがとってもいとおしかった。

…伊礼さんだけで尺使っちゃったけど、主役キャロルの平原さん。
学生の頃はライブによく行ってて、今回久しぶりな彼女の生歌を聴いた。
若い頃の喋り声や歌声がとても可愛らしくて、It Might as Well Rain Until Septemberのプル♪プル♪プル♪プル♪っていう雨の音もとい声が特に愛らしかった。
彼女がふつうに歌うと落ち着きのあるハスキー寄りの声というのを知っているから、年代によって声音を変えているのがよくわかった。

対して、一幕最後のOne Fine Day、二幕で自分が歌うと決めた(You Make Me Feel Like) A Natural Woman、ラストのBeautiful、カーテンコールのI Feel the Earth Move。
これらは本人の本領発揮という感じ。
クラシックの印象強かったけど、ソウルっぽい拍の取り方も感じて迫力あり。
歌うまいのでさながらほんとにライブに行ったみたいでとても満足感高かった!

ただこれを言っていいのか微妙だけど、本人の歌唱であってキャロルの歌唱ではなかったかな。
キャロル本人はかすれ気味の声のカントリーな歌い方をする人で、大人な味のあるかっこよさは感じても大声量でスコーンと聴かせて大迫力!というのは少し違うかなと。
でもラストかつライブという設定だし本人に寄せて歌って盛り上がりに欠ける…というのももったいない話なので、本人の本領発揮モードで良かったなと私は思った。

あとはアンサンブルの方、菅谷真理恵さん。
シュレルズのときは声は特定できなかったんだけど、身のこなしはカンパニー全体の中でも特に目を引いたかも。
昔の振り付けなので今どきのハードなダンスみたいな動きは全然ないんだけど、手足の優雅さというのか、なんならカーテンコールでの立ち姿まで、いつ見てもきれいでついつい目で追ってしまった。
きっとダンスがお得意な方なんだろうなぁ、もっと見てみたい。

そしてこの方の声を唯一ちゃんと特定して聴けたのが、Uptown。
バリーとシンシア夫妻のつくった曲を、バンドをバックにボーカル彼女で歌う曲。
あまり長くないし1曲まるまる歌に集中するようにできているシーンじゃなかった気がするので細かくは思い出せないんだけど、とにかくこの方の声はドラマチック!

歌い始めたところから、「やばいこれはこの後すごく感動する声が聴ける予感がする…」って思って、そして思った通りだった。
なんといったらいいのだろう、MISIAの歌声に似てるのかな、なんだか音をなぞるだけじゃない何かを感じる声だったのだよねぇ。
イメージとしては地響きのような、上っ面じゃない、もっと深いところから響かせるような声がとっても素敵と思ったのでした。

pickの3人は以上だけど、歌うまい人たくさんいたのでもうちょっと触れたい。
まず、シュレルズのメインボーカル、高城奈月子さん。
Will You Love Me Tomorrowのしっとり大人な女性の声がとても素敵で。
あとたぶんOne Fine Dayでは高音のコーラスをしてたと思われるけど、そちらも音がピシッと当たってて気持ち良かった。
そのOne Fine Dayではエリアンナさんがジャネール・ウッズとしてメインをとってて、こちらもとても素敵。
歌唱がパワフルで、でも余裕があって、あと手足も長いしお化粧も似合ってて美人さんだなあと。
歌がうまい方って、ブラックの方の役やっても平然とブラックっぽい歌い方してくれて嬉しいし説得力がある。

あと最後に、バリー・マン役の中川晃教さん、やっと拝見&拝聴できた。
歌うまオバケと聞いていたのでずっと見て見たかった彼、たしかに歌うまオバケだった。
前は歌手をしていたのね~知らなかった。
それを差っ引いても尋常じゃないくらい歌がうまいことがわかった。

でも今回は歌よりも、コミカルな演技がとてもハマっていて楽しかった!
病気持ちでちょっと空気が読めなくて金儲けのこともすぐに口に出しちゃうキャラクター、間違うとただのヤな奴になりそうだけど、彼のはそのあたりのさじ加減が絶妙。
バリー&シンシアカップルは登場するたびに面白かった。

観てない人にはなんの魅力も伝わらない気しかしないけど、ゆるしてほしい。
なぜなら素敵ボイスが多くて、しかし各々が持ち歌短くて、ちゃんと描写できるほど耳が覚えてられなかった。
起承転結はもちろんあるけどミュージカルにしてはそれらがあっさりしてはいるので、何度も何度も観たいかというと正直そうでもないかも。

でも、歌唱力の洪水にのまれたいわーというときや、あの人の歌が聴きたいわーというとき、やっていてくれたら軽率に観に行ってしまいそう。笑
再演予定は今のところないようだけどまたあったら観に行きたいし、今回発見した素敵ボイスさんたちを他の場所でももっと観たいなぁと思える、とても収穫ある観劇でした。

【キャスト】
キャロル・キング平原綾香
リー・マン中川晃教
ジェリー・ゴフィン:伊礼彼方
シンシア・ワイル:ソニン
ドニー・カーシュナー:武田真治
ジーニー・クライン:剣幸

伊藤広祥/神田恭兵/長谷川開/東山光明/山田元/山野靖博/清水泰雄(SWING)
エリアンナ/菅谷真理恵/高城奈月子/MARIA-E/ラリソン彩華/綿引さやか/原田真絢(SWING)