Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

1度で受け取りきるのは難しい:ポストマン12/24ソワレ

なんだかマイナスに見えるタイトルだけど、マイナスなことを言いたいわけじゃなくて。
脚本なのか、音楽なのか、3人それぞれの歌と演技なのか、それとも私の個人的な問題か。
どこに起因するのかわからないけど、この日1度観ただけの私には作品の魅力の半分以下しか受け取りきれなかった気がして惜しい気持ちってこと。
もっと前向きなタイトルつけたかったけど、直後の最初の率直な感想がこれだった。

ミュージカル ポストマン、初演と再演があり、今回は再再演とのこと。
キャスト4人、オケ4人ととても少ない人数(裏方さん除く)で懸命につくられた、「つくりこまれた」というよりは「ハンドメイド感」を感じる作品だったかな。
いつもは「あらすじはよそでどうぞ」と丸投げなのだけど、あまりオフィシャルな「よそ」がなさそうなので簡単に。
※思いっきりネタバレあり、1回観た記憶だけで書いてるので正しくないところもあるはず※

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【キャスト】
眞人、マルコ:海宝直人
英二、パオロ:上山竜治
美月、ソフィア:小南満佑子
少女:井出柚花

時間軸は2つ、現世@日本と、前世@100年前(たぶん)のギリシャのとある島。
現世で若手(たぶん)絵描きの眞人は夢だった仕事をしているのに、自分の描きたいものが見つからない・描けないことに苦悩している。
そんなとき(日本のどこかの)島の教会に絵を描いてほしいと島の村長の知人である英二から頼まれ、赴いたその島で美月という女性に会い、彼女を描きたい衝動に自分でも驚く。

眞人の持っていたオルゴールのメロディが英二や美月の島特有のものだったり、美月の行ってきたギリシャの島の教会の絵の話だったりから現世と前世をリンクさせて、二幕では前世の話に。

マルコはお金のない漁師で、漁に出ては病弱な友人であり郵便配達人であるパオロの薬代を稼いでいる。
ソフィアとは相思相愛でプロポーズすることを決めるが、パオロは過去に自分も身分違いの恋をし恋人を失ったトラウマから反対。
マルコはプロポーズの指輪の代わりに教会にソフィアの絵を描いていたが、完成間近でソフィアは島を出ることに。
ソフィアはマルコに「迎えに来て」と手紙を出すも、配達人であるパオロは自身の判断で別れの手紙と告げてしまう(マルコは字が読めない設定)。

ソフィアとの別れで悲しみにくれるマルコ、しかしパオロの体調が思わしくないためさらに稼がなくてはと漁に出る。
入れ違いでソフィアが一人島に戻ってきてマルコを待っていたが、悪天候によりマルコは帰らぬ人に。
ソフィアはそれでもマルコを思い暮らしたであろうことが示唆される。
過ちを悔やむ余命短いパオロは、島の少女から亡き父への手紙を預かるとともに、マルコにも手紙の真実を伝えようと語り二幕が終わる。

美月の絵を描いていて眠ってしまっていた眞人は、手紙…?と呟いて目覚める。
美月の絵を書き上げてしまったら自分の夢がまたなくなるのではと不安になった眞人は島を出ようとするが、「大事なものならばなくならず続いていくはず」と英二に諭される(ギリシャに残る教会の絵の写真も見せながら)。
眞人は美月のもとへ戻り最後まで絵を描かせてほしいと伝え、この先へのそれぞれの希望を感じるような音楽と照明とともに三幕の幕が下りる。
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眞人・マルコの海宝さん、今回もほんとに素晴らしい歌を聴かせていただいてありがとうございます!と思った。
音圧がすごいと思うときでも点ではなく面で押してくる感じで、音の鋭さだけで済まそうとしたらきっとうるさくなってしまいそうな声もこの人にかかれば立派な迫力として出力される。
なんだろう…まろやか?しなやか?な声。
揺らし加減が絶妙で、弦楽器のような品の良さ、でも金管みたいな華やかさもあるような。

眞人とマルコでは、眞人のほうが個人的にはしっくり。
まっすぐで情熱的なマルコにもとても説得力があったけど、眞人のほうがリアリティがあったからかな。
あとはマルコのナンバーは熱量がすごいので、小さいハコ(今回は時事通信ホール)に合ってないような気がしたせいもあるかも。
というかありがたいことにとても前の方の席で観たので、近すぎて圧倒され過ぎたのかも。
だからこそ、ソフィアを思う涙も、眞人衣装でなぜかひとつだけボタンがスキップされてる(笑)のも見えたけど。

それから、マルコの「この世の人でない感」出すのうまかった、どうやって出してるんだあのオーラ。
そういうトリッキーなまでに感じる演技力の一方で、細かいところもおろそかにしない丁寧な動作もあった。
たとえば、描いた絵をスキャンしてるときにはみ出した紙をもう一度挟み直すところとか。
あそこはスキャンしてることが伝わればいいのだと思ったけど、「スキャンとして正しくない(絵が斜めになる)」と考えてさりげなくやり直したのかなと思った。
あと冒頭もすごく寝起き感が出てて、冬の朝感すごかった。

英二・パオロの上山さん、やさしいお声だったな~。
いい声だなって思うときは何か別のものにたとえてその良さを伝えたくなる性分なのだけど、彼の声は例えようもなく人の声。
ナチュラルに話す声や話し方が素敵で、逆に歌うとその声の魅力が少し隠れてしまうような気さえした。
どうしても力が入ってそのナチュラルさが損なわれるというか。

英二・パオロのキャラクターに話を戻すと、人に慕われるだろうなっていう説得力があった。
上山さんもパウロより英二のほうがリアリティーあってしっくりきたかな。
ちょっと風変わりな男性という役だけど、適度なユーモラスを散りばめながら演じられてた印象。
あと英二が穏やかで愛のことをぼんやりとでも意識している伏線があったから、ある意味ポストマン=タイトルロールとして締めるとこ締めてくれたようにも思う。

歌は…海宝さんがうますぎるからなあ。
いい声なのだけど、音量・音程ともに少し応援したくなる感じだった。
三重唱になると海宝さん>小南さん≧上山さんってバランスで、度々聴きづらいところも。
でもほんと、この方はしかるべき演技をしてくださったので、初見でもちゃんとエッセンスが飲み込めてありがたかった。
二幕最後、背を向けていたところから振り返ると泣いてたようで、ほんとに鼻声みたいになっていて、それも良かった。

美月・ソフィアの小南さんかなり元気な印象、とてもお若そうで、お肌ぷりぷりのつやつや。
良くも悪くも、他のお二人ほど声に対する印象はあまり強く浮かんでこなくて、聴きやすい声だったかな。
彼女は、美月よりもソフィアにしっくりきた。
親の意向を気にしてばかりの少女から、マルコに出会ったことで凛とした筋の通った女性になる様が素敵だった。

演技というか表情が今風なものが多くて、そのあたりは個人的にはあまり好きになれなかったけど、演出の指示かしらオリジナルかしら。
たとえば、マルコに会えて夢じゃないかと頬をつねる、嬉しいときに口角だけでなく唇全体を持ち上げる、など。

歌は、音がかなりいったりきたりするから、難しそうだなって思った。
他の人もそうなんだけど、女性は音域高いところへ急に上がったりするところも多かったし。
上がりきらないまま数小節歌ってるところは頑張って!と思ったけど、マルコの絵を見て背を向けて歌ってるときに泣いてたみたいで最後声が出なくなってて、そこは逆に良かった。
絵といえば、カーテン越しにソフィアが微笑んでて、それがマルコが教会にソフィアの絵を描いてる様を表しているところ、素敵だったし可愛かった。

あとハプニングで、舞台装置?にスカートがくっついちゃったようなシーンがあって。
海宝さんと「くっついちゃったね」「ちょっと待っててね今すぐ行くからね」とそのままのテンションでアドリブしていたの可愛かった。
美月は出番が少なめだし人柄があまりよく見えなくて、他の人だとどうなるんだろう?っていう疑問というか興味はわいた。

少女の井出柚花ちゃん。
いっちばん最初にオルゴールのメロディ歌うとき、「この世のものでない」感を出すためかほとんど歌詞が聴こえなかったので心配したけど、杞憂だった。
この子だけは現世も前世も同一人物として出てくるんだよね。
違和感少なく、でも溶け込むでもなく、少し不思議な立ち位置として効果的に存在してくれた気がする。

ストーリーについては正直あまり好きなタイプのものではないし、突っ込もうと思えば突っ込めるところもあると思う。
(実際、一緒に行った子とは「あそこが変」「ここはおかしい」とそこそこ盛り上がってしまった。)
でも、これは1回しか観てないからかもしれなくて、他の作品だって突っ込みどころあっても何回か観るうちに気にならなくなったりするから、なんとも。


今年のお正月に初めて海宝さん@ノートルダムを観て。
「(海外ミュージカルはたまに観てたけど)日本にもこんなに素晴らしい人がいるんだ!」と衝撃を受けてそろそろ1年。
同じように素晴らしい人が他にもいるのではと、今年は毎月何かしらのミュージカルを観に行ってた。
もちろん素敵な歌声に何回も出会えて嬉しかったけど、海宝さんご本人のノートルダム以外の公演も含め、「お正月のノートルダム」が2017年最も忘れたくない公演かな。

今年はノートルダムで観劇初め、ポストマンで観劇納め。
2017年のスタートもエンディングも海宝さんの関わる作品だったので、今年は間違いなく海宝さんイヤーでした。
いろんな作品や素敵な歌を歌う人たちを知るきっかけをいただいたこと、感謝だなぁと思います。