Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

何度も出てくる「わからない」:ミュージカル パレード 5/21マチネ

YouTubeで最初観たときは難しい曲に日本語がうまくのってない気がしたし、
高い声で歌いそうなのは堀内さんしかいなさそうだったので、パスのつもりでいた。
でも初日にあがってきた感想やらレポやらを読んでなんだか行くべきな気がしてきて結局速攻行っちゃった。

ミュージカル『パレード』舞台映像

堀内さんの声、やわらかでふわり飛んでいきそうな高音が特に素敵。
地声との切り替えが意外とわかりやすいことに驚いたけど、低音もしっかり出ることにさらに驚き。
あと、裁判で証言する少女の一人であるアイオラを演じていた方もきれいな高音。
吉田萌美さんという方かも。気になる。
あと岡本健一さん、誠実さや妻への愛を感じるジェントルな声で素敵。
歌に不満のない方ばかりですごく音楽的満足感。

行って良かった、観て良かった。
でも終わった後の気持ちが複雑でやるせなくて、もう一度観られる気がしない。
ミュージカルなのにストプレを観たような感覚。


一幕。

冒頭に小野田さんが力強く迷いなく歌うThe old red hills of home、何度か出てくるんだけど、これフィナーレには全然違うものに聞こえた。
次の曲への繋ぎか何かのピッコロの音が音程おかしかったけど、敢えてなのかな?
石丸さんは小心者でキチキチした男性としてレオを演じ、堀内さんルシールは世間知らずでのんきな若い妻という感じ。
武田さん出てきてBig news、みんなでたらめ言ってるのは雰囲気で大体わかるけどほぼ一人も歌詞を聞き取れず。

メアリーの墓前で「なぜあの子が死ななければならないのか意味がわからない」といったニュアンスで歌われる曲。
よくワイドショーとかで「なんであの子が…」っていうあれ。
そしてレオが裁判にかけられたときも「冤罪なのに裁判になるなんて意味がわからない」みたいな一節あり。
メアリーの親族友達の「わからない」も、レオの「わからない」も気持ちは同じだと思った。
あと二幕でもAll that wasted timeで「わかっていなかった」と出てくる。

日本語訳の結果なのか原語の段階からそうなのかわからないけど、わかる/わからないというのはひとつポイントだったりするのかな?
理性とか知性がある人間なのにあふれでてしまう本能だったり衝動だったり、
「わかる」ということが本来ならストッパーになるはずでも時にそれを超えてしまうときがあって、
そのとき本流(民衆)/亜流(夫妻)みたいな構図がどうしてもできてしまうものなのかな。

メアリー母、聖母のようにやさしい歌で、あぁやっぱり母はやさしいんだと思ったけど、最後にはユダヤ人への憎しみが消せないことがわかる。
とてもやるせない。
そういえば劇中で歌われるユダヤ人の描写は偏見も多いだろうけどものすごく間違ってるわけでもない気がする。
まじめで教えに忠実なユダヤ人の描写な気がするので。
新納さんの「Hammer of Justice」はなかなかおいしいナンバーだと思うんだけど、何回か出てくる最高音が何度やっても当たらずかすれていたのはちょっと残念。
歌の上手い下手でなく音域の限界という感じ。

三人の女の子が証言するシーンがあって、歌い踊りながらのきれいなハーモニーだった。
照明も不気味だけどきれいで、ゆらりと踊る三人の手足と一体感のある演出だった。
嘘八百を聞かされるのでストーリー的にはつらいばかりだけど。
みんなにでっちあげられるレオの変態おじさん的な曲は素直に気持ち悪い。(称賛)
検事の石川禅さん、めちゃめちゃ歌がうまく民衆をうまいことのせていく。

裁判で有罪が決まったときの夫妻の演技が印象的。
レオはもう怯えきって力が入らない感じ。
ルシールはレオの手を取ろうと手を伸ばすけどあまりの「触ってはまずい」感のあまり触れないでいた。
ルシールはレオにがっかりしたり嫌になったりもしていたようだけど、なんだかんだレオに話すときだけはやさしい声。
堀内さんの声は耳触り良いから余計ソフトに聴こえる。


二幕。

真実を選んだ州知事(それを尊重する知事婦人!)、州知事になるために真実ではなく民衆にとっての正義を貫く検事、夫のために賢くなる妻。
非の打ち所もなく悪人なら憎らしく思うだけだけど、三種三様自分の信念に従い行動してのあの結果だと思うともうほんとに消化できない。
レオは派手な人物でないのもあって、ルシールや知事や検事、民衆が主役に見える。
判決が覆っても、どうしても誰かが犯人でないと気が済まない民衆。
チャーリーもすごく悪い人には見えず、レミゼのジャベールやノートルダムのフロローのように、自分の思う正義を貫いたまで。

All the wasted time、束の間の二人の幸せ。
もう本当に怒濤で気が休まらない思いでみてたけど、本人たちはもっとすごい精神状態が続いてきたから、やっと力を抜くことができたんだろうなと。
細かい日本語詞をほとんど覚えてないけど、wasted time は無駄にした時間かもしれないけど、それがなかったら二人はここまでこれなかったんだから不可欠な時間でもあったよねと。
ラストのロングトーン、「なにもー」ってなんか字数的に違和感あったけど、かといってat allに代わる似たような音節の言葉が思いつかない。

レオ最期のとき、何かユダヤ語で決意のようなことを歌って死んだあたり、妻の影響力ゆえかなと。
自分の末路を自分で決めた。
前までの彼なら許しを乞うとか嘆くとか諦めるとかして、弱々と死んだかもしれない。
ルシール、レオが亡くなった後に歌う。
悲しいとかおかしいとか嘆きとかではなく「自由になったのよ」と最後に一声。
レオに向かって微笑むように。
でもだんだん唇噛み締め耐えるような表情に。
後ろではパレードをしていて、いろんなものを吐露せず飲み込み続けてるように見えた。

最後、事件の日にメアリーが「フランクさん、追悼記念日おめでとう」とフランクの嫌いな日を祝ったことの意味。
たぶんメアリーにはそこまで深い意味はなさそう。
紙吹雪は人々の狂気の名残だとどなたかの感想で見かけたけど、人々の「正義」の降り積もりでもあり「過ち」の降り積もりでもあるかも。
ジョージアのためにとフィナーレで歌うけど、人をさんざん傷つけて成し遂げることとは一体なんなのか。
南北戦争を終えても、人の間に争いはなくならないことをどう捉えればいいんだろう。
カーテンコールの拍手はしたけど、気持ちが複雑すぎてなんのために拍手してるのかわからないまま涙が止まらなかった。<キャスト>

レオ・フランク:石丸幹二 
ルシール・フランク:堀内敬子 
ブリット・クレイグ:武田真治 
トム・ワトソン(政治活動家):新納慎也 
ニュート・リー:安崎求 
ミセス・フェイガン:未来優希 
フランキー・エップス:小野田龍之介 
ジム・コンリー:坂元健児 
ローン判事(担当判事):藤木孝 
ヒュー・ドーシー(ジョージア州検事):石川禅 
スレイトン知事(ジョージア州知事):岡本健一 
ルーサー・ロッサー(弁護士):宮川浩 
サリー・スレイトン(スレイトン知事の妻):秋園美緒 
ミニー・マックナイト:飯野めぐみ 
メアリー・フェイガン:莉奈 


石井雅登、杉山有大、当銀大輔、中山昇、水野貴以、横岡沙季、吉田萌美