Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

終わりでやっと始まる感じ:Next To Normal 1/8ソワレ

TENTHは、シアタークリエ10周年記念コンサートだそう。
一部で「ネクスト・トゥ・ノーマル」「ニュー・ブレイン」「この森で、天使はバスを降りた」を週替り上演、二部ではこれまでシアタークリエの作品に出演した俳優たちがこの企画のためのガラコンサート。

昼に観たニューイヤーミュージカルコンサート2018ですでに脳のメモリをくわれつつあったせいか、頭痛に耐えながらネクスト~と二部のコンサートを観劇することに…。
正直なところ一部の衝撃ゆえ、二部は「楽しいコンサートだなぁ」「新納さんはじめ皆さんお話が上手だなぁ」「彩吹さん美脚だなぁ」とぼんやり過ごしてしまったので、一部の感想だけ。

ネクスト・トゥ・ノーマル
ダイアナ:安蘭けい
ゲイブ:海宝直人
ダン:岡田浩輝
ナタリー:村川絵梨
ヘンリー:村井良大
Dr.マッデン(Dr.ファイン):新納慎也



Next To Normal at 2009 Tony Awards


いつもどおりネタバレ炸裂、今回曲があまり覚えられなかったので聴覚情報よりもほぼ解釈情報。
そして咀嚼しきれてないからいつもよりやたら長いです。
あらすじはオフィシャルへ。
http://www.tohostage.com/tenth/one.html

幕開きの曲(ピアノに突然ドラムのタムが割り込むところとか)がかっこ良くて好きだなと思ってたら、ダイアナとゲイブが話し始める。
(私は、観る前に軽くYouTubeみたりして曲はちらほらちらっと聴いておいたのと、息子ゲイブは死んでるってのだけ知ってた。)

ゲイブは死んでるのは知ってたけど、あまりにもリアリティある話をしているので、早速「???」。
だって幻覚なら「愛しの息子~」とか「ぼくとあなたとはいつでも一緒~」とか抽象的で曖昧な話をすると思ってた。
なのに実際は「まだ起きてるの?」とか「お父さんに見つかるから裏口から出て」とか、年相応に生きててそこに物理的にいるのかと思うほど具体的。
海宝さんゲイブの役作りはそういう演出なのか、ふと存在感を潜めることはあったけど、とにかく幻覚感も幽霊感も皆無だった。

娘ナタリーとのなんだかどこか噛み合わない会話。
村川さんのナタリーはイライラした思春期の女の子感をしっかり演じていて、最初はなんでこんなケンカ越しなんだろうと思ったけど、話が進むにつれて意味がわかった(後述)。
地声が多いのにキンキンせずスッと通る素敵な声で、ミュージカルっぽくない歌唱が現代的ななこの作品によく合ってると思った。

悪天候なのに良い天気という妻を否定もせずやさしくサポートする夫ダン。
岡田さんのたれ目でやさしそうなお顔立ちも加勢して、グッドマン一家で一番やさしくて実は一番ハートが弱そう。
ゲイブなどいなかったかのようにふるまったり、おかしいことがあっても直視せず「よくなるよくなる」と何事も見ないふりをしたり。
岡田さんは歌がうーんという感じ(音はとれてそうなんだけど聴こえづらい)のところが多かったんだけど、お芝居が良かったしわかりやすいダンを見せていただいた感じ。

Just Another Dayの事細かな歌詞は覚えてないけど、安蘭さんのダイアナは賢そうなのに、この曲では一心不乱に「パーフェクトな家族」「みんな愛し合う」といったようなことをまくしたて歌ってた。
パーフェクトと普通は、この作中ではイコールなのかどうなのか。
Who's crazyでは、妻と自分はどちらが狂ってるのだろうという問いかけもあった。
あと愛し合わなければならないという強迫観念もあったのかなと、終わってみると思い出される。

Everything Elseでは、楽譜で全て定められたクラシックを弾いていると(考えなくて済む、だか、頭がからっぽになる、だったかで)落ち着くというナタリー。
対照的にクラシックには創作の余地がないから即興のあるジャズがいいというヘンリー。
どっちもやったことあるからどっちもわかる。
My PsychopharmacologistはMy Favorite Thingsのメロディーのパロディを入れながらダイアナのお気に入りの薬を歌ったり、新納さん演じるちょっとひょうきんなDr.ファインがおもしろかったり。

ヘンリーの村井さんは初めて見るけど、行けなかった「きみはいい人チャーリーブラウン」でも癒し系チャーリーだったようだし、今回のヘンリーも作中唯一のほっこり系キャラクターだった。
でもただほっこりなだけじゃなくてちゃんとナタリーを見守ってあげていて、あなどれない包容力がある感じ。
Perfect For Youでマリファナ?薬?を吸ったまま告白したところは逆効果だろと思ったけど。
声はいいけど、なんだか難しい歌が多かったみたいで少し聴きづらいとこあったかな。

I Miss The Mountainはダイアナが感情豊かだった頃を山に例えて歌ってるらしいけど、初見にはその比喩は難解すぎてわからなかった(終演後調べた)。

It's gonna be goodでやたら元気を出してるダンが、ゲイブのバースデーケーキをもってきたダイアナに彼はもういないんだと告げるシーン。
ダイアナが動転するのは当然として、ヘンリーのほうがもっとびっくりだったろうな。
席位置的に見えなかった。

ダイアナがダンに「あなたはなんにもわかってない!」というYou Don't Know 、ダンとゲイブが「君をわかってるのは僕だ!」とダイアナを挟んで歌いまくるI Am The One。
ダンとゲイブを交互に見て目を見開き続けるダイアナを見てて、これはさぞかし精神的にキツかろうと苦しくなった。
I Am The Oneはイェイイェイ言う曲なのだけど岡田さんが全然様になってなくて(日本人がイェイイェイ歌いこなすのは難しいもんね)、他方海宝さんは違和感なくイェイイェイめっちゃ歌いこなしててびっくり。

そしてナタリーが歌うSuperboy and the Invisible Girl、YouTubeで予習したときは「superboyってなんだよ?」と思った。
母ダイアナにとって息子ゲイブがsuperboy(すごい男の子=理想の息子)で、娘ナタリーは存在してないってことだった、なるほど。
ずっと俯瞰してたのが、このあたりからナタリーに寄って観ていた気がする。
ちゃんと自分は生きていて勉強だってピアノだってやってるのに、死んだ兄ばかり見てるなんてしんどいなと。

ダイアナにはDr.マッデンがロックンローラーのようにワイルドに見えてしまうというDoctor Rock、新納さんの振り切れっぷりがすごかった。
新納さん、パレードのときも見て今回も見て、やっぱりちょっと歌は?なところがあるんだけど、そんなの些細なことだくらいの思い入れとお芝居のアウトプットがある人なんだなって思って、それもすごいなと。

海宝さんのI'm AliveはSNS上で大評判だったけど、私がナタリー(最後は+ダン)に寄って観ていたせいか、ちょっと好きになれなかった曲。
ダイアナがつくりだしたゲイブ像ではあれど、家族3人みんなを悩ませていたわけなので。
それでも「僕は生きてるんだ!なかったことにするな!」という叫びは、特にダンに対しては痛切なものだったろうと。

Make Up Your Mind / Catch Me I'm Fallingというナンバーがあったようだけど、もう記憶に乏しい。
There's a World、ゲイブが急に生気を無くした様子でダイアナにそっと近寄り、自分のところにきたら苦しみから逃れられるよといいながら指1本ずつ手首を丁寧に掴んでた。
これがダイアナの自殺未遂を示唆してて、ダイアナの体験を追体験しているような感覚になって、こんなにぼんやり恐ろしいことをしてしまうかもしれないのかと怖く感じた。

ここで、良い人なのかそうでないのかよくわからないDr.マッデンが(自殺未遂に対して)悔しそうに「クソッ…!」と言っていた。
彼は(客観的に正しいかはわからないけど)自分の正しいと判断した指針を貫くある意味強い医師なのだと思った。

このままでは命さえ危険だからECT(電気けいれん療法)を受けよう、とダンが説得。
その最中、ゲイブはダンを凝視していたのだけど、怒り狂って睨んでるというのとも違うし、そんなことしないでと恐怖しているのとも違う、「また僕をなかったことにしようとするのか」と静かに責めるような目だったのが複雑。

ダイアナは回復しなきゃとは思ってるから、同意書にサインし、治療を実施、記憶が消えてしまう(A Light in the Darkはここだったか?)。
きっと思い出すよとか前向きに言うダンはほんとに事実を直視できないんだなと思ったし、亡き兄ゲイブに嫉妬しながらも母を愛しているナタリーは記憶が消えてしまったことにショックを受け、「最低!」と言い放つ。

個人的にナタリーは自身の境遇にも関わらず両親も兄のことも心の底では愛している愛情深い女の子だし、数々の衝撃にダメージを受けながらも毎回のように「最低!」と言っているのは、逆に誰よりもその衝撃に真正面から直面しているすごい女の子だと思う。
村川さんのナタリー、痛々しいけど愛情深くて、すごくすごく素敵な女の子。

何回か村井さんヘンリーのHeyって曲があって、ナタリーを気づかったり、そばにいるよって言ってあげたり、力になりたいのだと都度伝える。
それがまた過大なものでなく等身大のヘンリーの延長線上にそのままアウトプットしたようなやさしさで、ナタリーにはヘンリーがいてほんとによかったねと。
ナタリーは最後の最後に受け入れるまで拒み続けるけども。

Song for Forgetting、Better than Beforeと、忘れてしまったところからやり直そう、ほら思い出してきて前よりよくなってるよ、という流れ。
でもやっぱり過去はなかったことにはできないから思い出したいのに、忘れてしまったら何を忘れてしまったのかもわからないのだというダイアナのYou Don't Know(reprise)。

ダンがダイアナに渡さなかったオルゴールを、ゲイブがダイアナに渡して彼女はゲイブを思い出す。
ダンがオルゴールを叩きつけるのが先かダイアナがオルゴールでゲイブを寝かしつけていたことを語りだすのが先か、順番が思い出せないけど、自分の心の中で大人になったゲイブにダイアナが言及したところで、彼は赤ちゃんの頃に亡くなっていると告げられて混乱。
(あぁ、思い出して書いてるだけでつらくなってきた…)

新しい治療をマッデンに勧められてどうするのかと問うナタリーに、「私はあなたをダンスに連れていく(待っているヘンリーのもとへ行かせる)」と落ち着いた微笑みでダイアナが答えたところがとても印象深かった。
混乱してまだきっと全てを整理できてないだろうダイアナが、「あなたにはふつうをあげたかった、あなたはあなたの幸せを」と言ったのは本心だったろうと思われて。
きっと表に見える部分ではゲイブに囚われそうは見えなかっただろうけど、ゲイブの代わりにナタリーを生んだというのに女の子だから“ゲイブの代わりにならない”と愛してあげられなかったこと、心の底ではずっと懺悔の気持ちがあったんじゃないかなと私は想像したので。

それに対してナタリーが「ノーマルにはなれなくても、普通の隣くらいで十分」っていうのが、またこの子の愛情深さに涙がでてきてしまうMaybe(Next To Normal)だった。
そして待ったいたヘンリーが歌うPerfect For You(reprise)。
結局最後までこの作品で出てくる「パーフェクト」の意味するところはわからなかったけど、ナタリーに寄り添うよっていうやさしくフィットする気持ちが「パーフェクト」なんじゃないかなって私は思った。

「(ナタリーが自分が狂うかもと怯えるのに対し)僕だって狂うかも」と少しへらっと笑いながら歌うところなんか、映画「エターナル・サンシャイン」を思い出した。
(あの作品は「またうまくいかなくなるかも、でもそれでもいい、そこからまたやり直せば」っていう肩の力を抜いてくれるようなメッセージがあったと思ってる。)

So Anywayでダイアナが出ていく意味が劇中ではわからなかったけど、彼女が出ていって始めてダンはやっとゲイブに向き合ったんだなっていうのはわかった。
I Am the One(reprise)を歌うゲイブをダンはずっと見つめられなかったけど、やっと彼の存在を見つめて「ゲイブ…ガブリエル(ゲイブはガブリエルの愛称)」と言うダンは、もう声がかすれて聞き取るのがギリギリだったくらい。
見つめるのはつらかったろうけど、無視したままではずっと精神的に自由になれなかったろうから、目があってやさしく「やぁ、パパ」ってゲイブに言ってもらえたことは、バッドエンドではないと私には見えた。

ダンだってゲイブを愛してたから、存在してたことを認めると悲しくて辛くてどうしようもないから、なかったことにしてたんじゃないかな。
だとしたら彼はこれからその悲しさや辛さを受け止め続けなきゃいけないけど、マッデンに「だれか話を聞いてくれる人(セラピスト)を紹介しましょうか?」と聞かれてイエスと答えていたから、少しずつ向き合うんでしょう。

ラストナンバーLightは歌詞が聞き取れなかったのか忘れただけなのかもう全然わからないんだけど、タイトルに書いたとおり、ここがやっとグッドマン一家のスタートだなと。
ダイアナはゲイブが「死んだ」ことを受け入れ、ダンはゲイブが「生きていた」ことを受け入れ、ナタリーは自分が「存在すると思えるようになった」。
バースデーケーキが出てきたときは「これからもゲイブの誕生日祝うのかよ」と思ったけど、それはナタリーのためのものだとわかったとき、おぉ…ついに透明のガールは実在のガールになった…と感慨深く。

そんなわけで、ダイアナがクレジットの最初だしその次はゲイブだけど、私はナタリーとダンが救われる物語と受けとりました。
幕が降りてからは心があたたまるとか前向きになれるとかというのとは違って、やっとこの苦しい世界が終わった…と思ったかな。
それとともに、これから先の長い道のりも見えるような気がして、「普通」に囚われず生きるとはなんて難儀なんだ…というところまで勝手に意識がいってしまった。
ノートルダムでも思ったけど、「しんどくてもう二度と観れない」って思ったのに、思い返しているとまた観たいような気がしてくる不思議な作品だった。

長かった…でもどうしてもインプットしたものをアウトプットしておきたかった、覚えている限りでもいいから。
ちなみに海宝さんの歌聴くつもりで行ったけど村川さんと村井さんが気に入りました。
安蘭さん岡田さんもすごく説得力があって、こんなに大変な作品をよくぞ演じてくださいました。
海宝さんゲイブはタイトなTシャツて胸板厚かったけど、SNSで見かけた妖艶さとかは感じなかった。
ふつうに良い青年に育ったけど時々子ども返りして困らせてるように見えたかな。
実際のゲイブは赤ちゃんのとき死んでしまってるけど海宝さんのは赤ちゃん返りほどではないから、子ども返りって感じ。

実は10周年祝うどころか、今回初めてシアタークリエデビューだったけど。
だってウィキッド以外のミュージカルをコンスタントに観るようになって1年経ったか否かくらいだから。笑
まあもしかしたら、今回座ったのは前方(一桁後半列)だったから歌がちゃんと聴こえない、音のバランスが良くないと思ったのかもだけど、ちっちゃいから近いとか遠いとか気にしなくてよさそうなのはプラス要素だよね。