Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

歌の他の表現手段もますます充実:海宝直人 CONCERT 2019 『I hope.』2019/8/10公演

久しぶりの海宝さんの生歌。相変わらずの安定感とひたむきに歌や作品に向き合う様がやっぱり素敵だったなぁ。

今回はオープニングでタップダンスをしたり、終盤で弾き語りがあったり。今まで歌にフォーカスしていたように見えたところから、歌以外の手法にも取り込んでいて、表現の追求はどこまでも。

今回3階の最後列だったし、もともとオペラグラスとかで観劇しないほうなので、ほぼ完全に聴覚情報のみの感想。セトリはSNSでメモされてる方ので答え合わせさせていただきました。


■overture
海宝さんの素晴らしさを支えてる大きな要素のひとつは、間違いなく森さんだよなと。オーバーチュアにどんな作品が織り込まれていたかこと細かには覚えていないけど、ボリュームあって聴き応えあった印象。全編通してさりげなくチェロがおいしいアレンジだったように思う。

ちなみにジーザスも含まれてて「またなの?」(ごめんなさいジーザスそんなに好きじゃなくて…)と思ったら、本編に一切出てこなかった。

■that’s entertainment
ステージ中央の謎の白いドアから登場。the band wagonらしい古き良きミュージカル(みたことないけど)って感じのどっしりした感じで歌って、途中から終盤に軽やかにタップも挟んでた曲。

私たち観客はすでに出来上がったものを見せてもらってるから、「すごく練習した」と言っていても「またまた~」なんて思ってしまうけど、練習したのはきっと本当なんだろうな。

タップダンス詳しくないのであくまで個人的な感想だけれど、タップの音はけっこう重ための音、低めの音に聞こえた。タップチップの面積が広めだったのかな。軽くて高めの音が個人的には好きなんだけど、音に精通した海宝さんのことなので、そういう音づくりなんだろうなと思った。

■君住む街で
ミュージカルの歴史をたどる形式でのコンサートですとのことで、次はマイフェアレディから。the band wagon同様にみたことがないので、あとでYouTubeでみてみて記憶を再生。

これもクラシカルというか、少しjazzyなバック音楽がおしゃれで、ノーブルな感じの海宝さんによく合ってた。たぶんこの世界観の衣装も似合うんじゃないかなぁ。

■maria
エストサイドストーリーは、去年?一昨年?シアターオーブの来日公演で、すごく感動した、個人的に思い出深い作品。ソフトで夢見心地で歌われたうっとりソングだったのだけれど、心なしかラストの小さな音での長音前後がかすれて聴こえた気が。

この後数曲、ソフトなアプローチをする中~高音において、なんとなく同じような印象。ストロングに張り上げるような音や、もっと高い音はちゃんと出てたので、音響の問題?張り上げる音は若干割れて聴こえたところもあって、声量すごいと思った。

■my favorite things
■edelwiss
サウンドオブミュージックから。my favorite thingsも、出だしがかすれてというか、ほんのちょっと音程がぴたっとはまらないような?my favorite~や、edelwissみたいな、歌い上げでもないししっとりでもないし、みたいな曲をコンサートに組み込むのって勇気が要る気がする。

edelwissは、ぽつりぽつり音を置くような歌い方をしてたのが素敵だなぁと思って、海宝さんの声そのものを味わうように聴いていた。ただ声を出しただけでも素敵な声なのに、その声でつむがれる歌なんて、やっぱりとんでもないことだ(ほめています)。

■send in the clowns
リトルナイトミュージックという作品から。みたことないけれど、日本でもちょこちょこやっているらしい。これが「愛の賛歌」を歌うようなアプローチで、とっても好きだった。海宝さんの歌う「愛の賛歌」、大好きなので。

初めて聴いた曲だからかもうどんなふうに歌ってたかほとんど記憶できてないんだけど、とにかく女性の少し呆然としたような感じというか、歌い込むというよりはため息の延長が歌になっているような。

あと曲そのものもたぶん私の好きなタイプで、森さんのピアノがまたふとそこにいる感じが心地良かった。冒頭でオーボエクラリネットのソロが少しあったのはこの曲だったかな?それもやわらかで寄り添うような音で、好きだった。

■街灯の下で
me & my girlという作品から。これは「(彼女は)ワンダフルでマーベラスでビューティフルで」っていう日本語訳の音の並べ方が可愛らしい歌詞でとっても印象的。のらりくらり、ゆらりゆるり、好きな娘のことを歌う感じ。

メロメロになりながら流れるように歌う様に、本編ではベタボレなんだろうなという想像が簡単にできる。本役やったらもとてもハマりそうな、そんな声の裏返し&音の運びでした。

■the music of the night
歌の抑揚もたっぷりで、特に低音域の美声を堪能という感じ。個人的にファントムは若干気持ち悪い粘着質な感じがあったほうが説得力ある気がするので、それを考えるとけっこう爽やかなようにも思った。ただのイケメンファントム(と個人的に思っている&ほめている)ベンフォスターの歌唱にイメージ近いかも。

最後の弱音でのロングトーンが、やや早めに聴こえなくなってしまったのが少し残念だった。オケがかき消したというほどの音量ではなかったし、数曲手前で感じた声のかすれもあったように思ったので、マイクの問題?

■対決
ゲストの吉原光夫さんがいらして、楽しいお話をいろいろと。「トークゲスト」とアナウンスされてたけど、レミゼから一部歌ってくれた。吉原さんがジャベール、海宝さんがバルジャン。

レミゼに限らずミュージカルの重唱って、ものによってはどの人物の歌詞も拾えないやつがあるんだけど、対決はまさにそれ。私の耳では、吉原さんの歌詞も海宝さんの歌詞もろくにキャッチできず無念。お二人ともエエ声っぽいなということしかわからず。

■ありのままの私
ラ・カージュ・オ・フォールから。そんなに没入して歌ってる感じはしなかったんだけど、思い出してみるといい塩梅で歌のメッセージが声にのっていたような気がした。

周りからどう見られようと、私は私!というメッセージは、海宝さん自身からそういう類の主張を感じたことはないけど、この曲によって歌で伝えてくれると、なんだか説得力があった。

■someone to watch over me
ここから二部。これはなにかのCMかなんかで使われているような?とにかく聴いたことがあった。今回、少しjazzyな曲が数曲セトリに入っていたけど、とっても合ってると思った。ブルーノートとかモーションブルーでジャズライブやってたら行きたい。

■愛せぬならば
劇団四季では野獣はけっこうベテランさんが演じられるようだけど、王子って青年なんだし海宝さんがやっても全然いいと思う。野獣のお面や衣装じゃないけど、野獣のビジュアルの中で苦悩する様のように見えてくるし、かなりはまっていると思う。

ラストの「滅ぼせよこの身を」のロングトーンは、少しの不安もなくストロングに音が飛んできて素晴らしかった。なんなら強すぎてビリビリとした音もちょっと混ざってしまってはいたけど。あの強さで音を前に飛ばすなんて、イディナを思い出すほどの音圧だった。

■自慢の息子
CD音源ほど子音(mとかbとか)が強くなくてよかった。本編で海宝さんがアラジンを演じてるのをみたことがないのでなんとも…だけど、品行方正な彼がまさか落ちこぼれボーイだなんて、コンサートでみている限りはどうしても信じられない。笑

■feed the birds
女性の歌をとても美しく歌うなぁと思うし、ブロードウェイ作品も良いけれど、持って生まれた雰囲気とかも加味すると、海宝さんはウエストエンド寄りな気がする。穏やかに諭すような「tuppence(2ペンスのことなの初めて知った)」の繰り返しとその声で、ロンドンのセントポール大聖堂の前の階段に佇んでる様が浮かんだ気がした。

■自由を求めて
これをやることは事前にアナウンスされていたのでとても楽しみにしてた。大好きで大好きで、私の中で一生殿堂入りのwicked。圧巻の歌声だったとは思うのだけど、wicked好きすぎて「ここはこう歌ってほしい」「ここはこういう音の長さにしてほしい」という好みがありすぎて、ちょっとそれとは違った(苦笑)。

というか、意外と細かな部分で譜面と違う音の運びで歌われた印象だったので、私は案外「譜面どおりに歌われる、(天才のではなくて)秀才のDefying Gravity」が好きらしい。ラストのシャウト?ロングトーン?も、音源どおりが好きだから、たぶんそう。

■vienna
smashというドラマの曲らしい。弾き語りを披露。これとても良かった!個人的に、海宝さんの英語歌唱曲は滑舌が良すぎるように感じることがあって。だからむしろ、ピアノ弾きながら少し流し気味で歌ってくれるくらいがすごく耳触り良かった。特に出だしの、柔らかく語り出すようなところ。また聴きたい。

■my Petersburg
これもとてもいい!歌の高揚感がしっかりあって、とにかくラストのロングトーンの音の当たり方、音質、これだけで「あぁなんかもうオールオッケー!」という感じでとても合っていると思った。アナスタシアのディミトリ、絶対観たい。楽しみ。

■stars
アンコール。以前バルジャンのbring him homeを聴いたとき、とても美しい曲を美しく歌っていた印象で、ただ、なんかバルジャンにはそれなりに老いていてほしかったのでそこだけが少しアンマッチな気がしてた。それでいうとジャベールにしてはまだ若い。

のだけど、なんかbring him homeはもう少し歳とってからやってほしいと思ったのに、starsはもうやってほしいと思った。意志の強さ、少しだけ混ざる戸惑い、それでも自分の芯の信念を持ち直すロングトーン、どれももう持っているような。まあ、実際はやっぱりまだしばらく先なんだろうけども。


オーチャードホールの3階最後列、顔が見えなくても良ければ、音はそのへんのS席より良かった気がする。2階席に何度か座ったけど、2階センターとかだと、意外と音が素通りしていくというか、手を伸ばすとそこに音がありそうなんだけど、自分のほうに来ずに上に吸い込まれてしまうような感じ。

ほんの一部だけど、声がかすれたり割れたりして聴こえたのが、やっぱりちょっと残念だったかな。あと森さんのピアノ大好きで、今回も楽しませてもらったんだけど、ちょっと音の粒の輪郭がぼんやりな感じで、これも会場や音響によるのかな。

ミュージカルの歴史をたどる、みたいなテーマで、歌い終わった後はすぐに流暢な説明が入っていたから、ちょっと余韻がほしかったかも。あとは前半の曲なんかは「没入」というのとは少し毛色の違う曲だったせいか、比較的ライトな印象のコンサートだった。

作品でまたお目にかかるのが楽しみです。あと、いつかジャズライブもやってみてもらえたら嬉しいなぁ。