Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

幾層にも重なるような音とダンスでできている:West Side Story 7/23ソワレ

観るつもりなかったけど、一応チェックしてみたらいい曲ばっかりだということに気づき慌てて観に行った@当日券。

Highlights of "West Side Story" on Broadway

観劇で払うのって高くても10000円くらいだからS席13000円は高いなと思った。
が、パフォーマンスがちゃんと良かったしそこそこ見易い席だったので総じて満足。
今回は1階の真ん中よりちょい前のサイドブロック下手側に座ったのだけど、傾斜もあったし(シアターオーブは8列目からじゃないと傾斜がないことを今回ふらふらして学習した)、音の聴こえもまあまあと思った。
いつも2階席にしてたけどいつも音がこもるので、今度からは1階か3階かな~。

ざっくりとした感想は、
「曲に触れ幅とおもしろみとセンスがあって素晴らしい!」
「ダンスもバレエのようなクラシックな動きをベースに多彩に展開していて見ごたえすごい!」
「トニーとロザリア(+Somewhereソロ)の声に魅了された!」
の3本。笑

あと後味というか終演後の気持ちは、ノートルダムと近いかな、悲しくて悔しくてやるせない感じ。
私が彼らだったらどうしていたら…この悲劇は回避できなかったのか…
人間というのはどうしてこう賢くないんだろう…それでも生きていかなきゃならない人間って…。
(このあたりでやるせなさMAXで言葉が出てこなくなる)
もう観たくないかというとそうではない。
そういう衝撃的な気持ちを持てることはある意味自分の気持ちに変化を与える機会として貴重だし、音楽やダンスを楽しみたくてまた観たくなったりする。

さて曲については私が言うまでもないけど、クラシカルなものからジャズ、マンボやチャチャといったダンス音楽まで幅広い。
トニーの声が良かったからSomething's comingもMariaも良かったし、ロザリアの女優さんが舞台に姿を見せずに歌っていたSomewhereも素晴らしかった。
I feel prettyなんかは、WickedのPopularとかSound
of MusicのMy Favorite Things に雰囲気似てるかなと思ってかわいいなと。

ただこれだけ幅広いと、演奏するのも歌うのも踊るのも大変そうだなぁと楽器演奏や歌をかじる人間としては思う。
歌なんか、音符の行き来が激しい。
あと、あの音の重なりというか奥行きというか、なぜそういうふうに聴こえるんだろう。
込み入って難解とか緻密で固められてる感じはしなくて、幾層にも重なるような奥行きを感じた。
オケピを覗きに行ったら思ったほど楽器が多くなくて、なおのこと不思議だった(もちろんいい意味で)。

ダンスは微塵もかじったことがないのでわからないけど、少し様式美というか古典的な振り付けなのかな?
優雅に飛び上がるバレエのようなダンスがすごく好きで、何度も言うけどSomewhereは女声ソロとあいまって幻想的なシーンだった。

ジェットとシャークスのダンスは一人一人の動きや跳躍にやや個性があって(見方によってはばらつきがあって)、そういう意味ではダンスパーティの一連のダンスのほうがまとまりはあったかな。
んーやっぱりダンスについては疎いしこの作品を舞台でちゃんと観たのは初めてなので絶対評価しかできない。
ダンス素人としては、総じて「すげぇなぁ」「素敵だ」と思うことが大半で満足でした。

さて、素敵な歌声を表現するために書いているような本ブログのメイン、トニーとロザリアの印象的な歌について。
まずトニー、演じていたのはKevin Hack。
うまいうまいというクチコミは見かけてた。
そして期待を裏切らず素敵な歌声だった。

どう素敵かというと、Matthew James Thomasばりに高音に無理がなく、スムースに出るし高さも問題ない。
高音域を安心して聴けるだけでかなりポイント高いのだけど、しかもその音域でメゾピアノ~フォルテくらいのクレッシェンドもやってのけていた(Something's comingかな)。

ずっと裏声、とかずっと地声張り上げ、とかはやれる人いると思うけど、音程はそのままに息の量をだんだん多くして音量を上げてくのって難しいんじゃないかなと素人ながら思っている。
相当な息の量がないとあのクレッシェンドはできないと思うし、やり過ぎても声が揺れてしまいそうだし、器用にチューニングして歌ってるなぁと。
もちろんなんてことなしにやってたし、たぶんこの方MAXのところでも7割~8割くらいのパワーで歌ってたんじゃないかな。
まだ余裕がありそうだった。

あと、Mariaだったかな、甘くしっとり歌っていてこれも聞き応えがあり、たぶんAmerica並みに拍手が多く長かった曲のように感じた。
この曲の高音部分はさらに耳が幸せな感じで、オケの弦楽器と溶け込むようなきれいな声を響かせていた。
ほんと、バイオリンとかチェロみたいな、やさしいんだけど実はハリがある、という感じの声。
声というか楽器みたいだったから、音、という感じ。
(高音好きなもので、その話ばかりしてすいません。)

少しだけ気になったのは、声に角がないせいか、感情を爆発させてるように見える場面が思い出せないこと。
まあトニーはケンカもしないし、ベルナルドを刺すときも歌やセリフがあるわけでもないし、尖った声を聞くシーンがほんとになかったのかも。

というか彼に限らずカンパニー全体的に、幻想的なシーンとか抽象的なシーンの表現(主にダンスになるかな)のほうがしっくりくるものがあって、怒りとか熱っぽいシーンは少し形式化して見えたかな。
トニーについては、マリアが死んだという嘘を聞いて自暴自棄になっているところなんかは、悲しみ先行だから角がなくても悲壮さがあってそれはそれで良かった。

マリアといえば、Jenna Burnsは声が出てないわけではないんだけどビブラートが細かくて個人的にはあまり耳心地の良い声には聴こえなかった。
それよりも!ロザリアを演じていたNatalie Ballengerの声のきれいなこときれいなこと。

ちゃんと彼女の声だと識別して聴いていたのはAmericaくらいだったけど、あんまりきれいで美しい声だからもっと歌ってほしいなと思ってしまった。
ロザリアという役という観点でみればもう少しとぼけたファニーボイスが良さそうだけど、私は彼女の声がとても素敵だということを知れただけで幸せって思う。

そして彼女と知らずに聴いていたSomewhere(調べて知ったけど、この曲を歌う人は舞台に居ないというのがもともとスタンダードとして決まってるらしい)。
幻想的な演出とあいまってほんとに感動てしまった。

陳腐な言い方をすれば、尊くて浄化されそうな歌声。
聖歌みたいにストレートでも響いてこないし、あまり個人の個性が出るのもたどり着けないユートピア感に欠ける。
嬉しいのでも悲しいのでもなく祈りの歌として聴こえてきて、涙が出ないわけはなかった。
彼女はオペラもやっているみたいなので、それゆえこのさじ加減ができるのかなと感嘆した。

印象的なのは以上ふたり。
他キャストも少し触れると、アニタを演じたKeely Beirneは歌とダンスのバランスがだれよりも良かったと思う。
激しいダンスも見ごたえがあったし、歌も音域が合っていて、特にA Boy Like Thatは女として/姉としての彼女の心情が存分に表現されていたと思う。

エニボディかわいかったし、オレンジやカーキ、イエローのドレスもよく似合って素敵だったので全体的に目が幸せだったのはジェット側。
ただ男性陣はリフがダンサー寄りだけど歌もいけるかな、と思ったくらいで他に特筆した感想は思い出せない。
シャークス側はプエルトリコなまり(すごくRを巻く、あとLをはっきり発音する)がよくわかる話し方・歌い方で、英語で見るからこそ活かされる部分だなと思う。

キャストボードがなくて細かい配役がわからないし英語サイトも見当たらない、と思っていたら、あったわ英語サイト。
ドメインがドイツのだからスルーしてしまっていた。
http://en.westsidestory.de/

ここに載ってるキャストがどれくらいの頻度で更新されてくかわからないので、私が観たであろうキャストを一応テキストに残します。

Tony:Kevin Hack
Maria:Jenna Burns
Anita:Keely Beirne
Riff:Lance Hayes
Bernard:Waldemar Quinones-Villanueva
Doc:Dennis Holland
Lt.Shrank:Michael Scott
Officer Krupke:Kenn Christopher

【Jets】
Glad Hand | Resident Director:Eric Rolland
Action:Joe Bigelow
A-Rab:RYAN P. CYR
Baby John:Daniel Russell
Snow Boy:Logan Scott Mitchell
Big Deal:Andy Frank
Diesel:Kyle Weiler
Graziella:Lauren Guerra
Velma:Jill Gittleman
Minnie:Carley Ingold
Clarice:Veronica Fiaoni
Anybody:Natalia Sanchez

【Sharks】
Chino:Julio Catano-Yee
Pepe:Cameron Mitchell Jackson
Luis:Georgios Maniadis Metaxas
Anxious: Nahum McLean
Nibbles:Jonathan Quigley
Moose : A. J. Lockhart
Rosalia:Natalie Ballenger
Consuelo:Kelsey Elisabeth Holley
Francisca:Kayla Moniz
Teresita: Lauren Soto
Margarita:Nikki Croker
Swing:Nick Raynor
Swing: Kelly Methven

自身に近くて等身大な歌声:Gina Beck

またまたWicked女優だけど、今回はWEと北米ツアーでグリンダを演じていたGina Beck

Ruler of My Own- Stars of the West End Sing the Songs of Steven Luke Walker (The Young Victoria)

彼女のことは2013年夏にロンドンへ行った時にHayleyエルフィーと一緒に観た。
2階席中程から観たのではっきりみえていたわけじゃないけど、ネットに転がってる写真とか見ると絶妙に可愛い。
超絶美人とかじゃなくて愛嬌のある感じがにじみ出る可愛さ。

当時圧倒的エルフィー派だったこともあって、実は彼女の声については特筆するものが思い出せない。
(グリンダはオーストラリアのSuzie Mathersとか、日本なら劇団四季の苫田さんとかが好みかつ印象的。)
下手だなと思った覚えもないから、そのときの感想としては可もなく不可もなくだったかもしれない。
でも、帰国してから彼女の歌をYouTubeで探してみたら、ブックマークしておいて何度も聞きたくなるような歌がいくつもあるのだ。

なんでかなぁ、曲がいいのかなぁと、最近まで考えを巡らせてた。
それで、私のアンテナに止まる理由を言葉にしてみたら、「等身大な女性の歌」に聴こえるからじゃないかなぁというところに着地した。
ただきれいなだけじゃない、そこには一人の女性がいて、その彼女自身の語りのような歌に聴こえる。
壮大なテーマよりもそういう自分と地続きな曲のブックマークが多いので、少なくとも私にとってはそういうところが魅力なんだと思う。

いくつか見つけた彼女の歌うYouTube動画の中で、一番好きなのは冒頭に挙げたRuler of My Own。
Steven Luke Walkerの作曲で、この人の曲はけっこう好き。
Ruler of My Ownはヴィクトリア女王の映画「The Young Victoria」にインスパイアされてできた楽曲らしい。
曲がとても気に入ったのでてっきり映画に使われてるのだと思ってレンタルしてみたけど、それらしい曲は入ってなかったときは拍子抜けした。

映画の内容はお察しのとおりで、王家生まれゆえに何事も人に決められてきたヴィクトリアの話。
そして曲は、歌詞が見当たらないので一言一句聞き取れてるわけじゃないけど、ヴィクトリアが青年アルバートに出会って、誰のものでもなく自分の人生を生きようと歌い上げている。
出だしの不安で悲しそうな声から、彼に出会って彼に愛されて、自分を意のままに動かそうとする人たちに屈せず自分を律していくのだと強く言葉にするところまで、とても等身大。
最初から威厳や自信があったわけではなくて、様々な経験や出会いを経て得ていく女王としての風格。

若すぎても女王になっていく様との隔たりが気になるだろうし、年を重ねて貫禄が出てしまっても、迷いや不安から脱却する様が描けない。
Ginaがヴィクトリアと重なる若さが声や見た目にリンクしているから伝わる「身の丈」感だと思う。
少し歌というより地声で話してるように聴こえるところがまた然り。


Forever Child - Gina Beck - Music and Lyrics by Anderson and Petty

もうひとつ好きなのはForever Child。
Ginaに子どもはいない(と思う)けど、我が子が腕の中にいるのが見える気がする、優しい歌。
ベースは子守唄的なやさしさで、中盤から後半にかけては「私がなんとしてもこの子の手を引き導く」という決意や使命感も感じる。

これも、歌うにふさわしい絶妙な若さが活かされてる曲だと思う。
母になりたての真っ直ぐさといくらかの必死さ。
声の処理というか、音の角を丸くした声ならシエラとかのがより長けていると思うけど、この曲は変に丸みのある声でなくていい。
少しチューニング外の強さがかいまみえるような声が母の強さと余裕のなさにリンクしてる。

どちらも時々、特に癒されたい気分の時に聴きたくなる。
ロックでもポップでもミュージカルでもなくて、こういう曲にも出会えると、心の豊かさの引き出しが少しだけ増えた気がする。

なにかとリフが素晴らしい:Alyssa Fox

ほんとはGina Beckのエントリを書いてる途中だったのだけど、遅ればせながら嬉しいニュースを知ったので。


Alyssa Fox's LAST Defying Gravity on the 2NT

【Alyssa Fox、「Frozen」のエルサ(スタンバイ)役に決定!】
http://www.playbill.com/article/full-cast-announced-for-broadways-frozen

いやーめでたい!
なぜ本役じゃなくてスタンバイなんだよアメリカってそんなに逸材ばっかりなのかよ意味わかんないよと思いつつもめでたい!
だって初演だもんね!しかもアナ雪!
まずはアメリカのデンバーでこの夏トライアウト公演だそう。
いやーブロードウェイにきたらしばらくチケット取れなかろうね。

さて、興奮して言ってますけど、この方、生で観たことはない。
いつものようにWicked動画をあさってて、北米ツアーのプロモーションか何かで目にしてから気に入ってて。
タイトルにも入れたけど、リフにすごくセンスがあって、そしてそのセンスをちゃんと歌声としてアウトプットする力のある人だなと思ってる。
基本音の確認はWickedとか、私みたいな一般人が辿り着ける程度のYouTubeだけど。


Alyssa Fox - "The Wizard and I" - Wicked
たとえばThe Wizard and I。
後半盛り上げの「Feeling things I've never felt~」のところ、I'veで譜面より2コ上げて階段を下りるようにfeltで譜面の音に戻ってくる。
もともと高い音をさらに上げてしかもぱしっと当てるの、すごいし聴いてて気持ちいい。
オーストラリアカンパニーで長年エルフィーやっていたJemma Rixも似たアレンジしてて好きだった。

他にはみんな大好きDefying Gravity。
これは冒頭にYouTube貼ったやつ。
いろんな人がいろんなアレンジを加えるいっちばんさいごのAhhhhh!じゃなくてその手前。
「…is ever gonna bring me down」の後の2回目の「bring me down」の「down」のところ!
ふつうbring(A) me(E) down(E→D)だけど、彼女は違う。

うまく書けないけどbring(A) me(E) down(EFGEFEFED)って感じ、すごく細かい。
そしてGまで行っちゃう、高音を行き来するスキル。
その高音のリフに合うまっすぐで芯のある声。
やる人によっては自己アピール過多にも聴こえそうな高音×細かいリフがとてもしっくりくる。
(ドイツオランダイギリスでエルフィーやったWillemijnはAhhhh!のリフが細かいけどあれはあまり好みでない、もう聴き慣れたけど。)
素晴らしいなぁとYouTube観るたび感嘆するもので、いつか生歌を聴きたいなという思いはつのる。


“All by Myself” :: Mar 27 @middlechurch
こんなのもあった。
セリーヌディオンのカバー。
身ぶり手振りがあるせいか力もかけて歌ってるような気もするけど、やっぱりうまいことに変わりはないなぁと。
Wickedでのアレンジはどの音を行き来してるのかはっきり鍵盤を鳴らすようなものだったけど、このときのはグラデーションみたいに弦を鳴らすようなアレンジ。
2:35あたりの、高いFから戻ってくるときの軽い声の裏返りというかこすれというか、たまらなく好き。

大迫力ゴスペル系より、声の線というか芯というか、その太さが少しだけ細めの、スコーンと声を飛ばす歌がやはりタイプのようです。
日本にもこういう声の人、もっと見つけたいのだけど、どこにいるのかしら?

表情が見える、歌を極めて変化する声:海宝直人

彼については何から書いたらいいのやら。
Wicked関連以外で久しぶりに心底気に入った方なので。

貴重な稽古場公開!劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘』|エンタステージ

歌が本当に好きで好きで突き詰め続けているんだろうなという感じ、それでいて人からの評価を気にする様子なく自分の追求にただ正直な感じ。
そういう、歌が素晴らしいところ、音楽や作品や人に対してフラットで誠実、ある意味まっさらでドライなところ、とても好きです。
まあ、誠実とかドライとかはこちらが勝手に思ってるだけど、そういうふうに見えて仕方ないや。

きっかけは2017/01/04。
年始休み最終日、年末から気になってたノートルダムの鐘を観ることにした。
YouTubeだと海宝さんは声高めでいいけどこのハイトーンは生でも出るのかしら(疑ってすみませんでした)、飯田さんはハイトーン出なさそうだけど太めのゆったりした声なのかしら(こちらは概ね合ってた)、といった感じで特に希望はなく。
失礼ながら劇団四季の方で歌声が気に入って何度も再生したのは谷原志音さんくらいだったので。
海宝さんが四季の方ではないのは後で知った。

マチネは飯田さん、ソワレは海宝さんか。
朝から並ぶんだし昼の飯田さんでいっか。
あ、何人か前でマチネ売り切れた、どうしよう。
でもせっかく並んだからソワレの海宝さん観るか。
一回家帰ってまた来るのめんどくさいけど。
そんなことを思いながら手にしたチケット。

劇団四季劇場・秋、だいぶ前のマンマミーア以来。
初めてのバルコニー席後ろの立ち見(かなり上からだけど音重視な私にはコスパ最高と思った)。
初めてのノートルダムの鐘。
観劇後はあまりの感動とショックでボーッとしてしまい、仕事が始まっても成人の日になってもノートルダムのことが頭から離れないほど好きになってしまった。
どうしてももう一度観たくてまた海宝さんの出演回の立ち見に並んで観たくらい。

基本的にミュージカルはとにかく歌のクオリティが高いことが私にとってマストて、演技方面についてはキャラクターに合致する喜怒哀楽を見せてもらえればくらいの感覚だった。
そんな折、「演技」に長けた人はたくさんいると思うけど、「歌声での演技」を明確に意識したのはこの人が初めてだった。

彼のカジモドは顔の歪みをきつくしているせいか、いつも悲しく今にも泣き出しそうに見えて、声色にもそれがありありと表れていた。
「醜い」という言葉を言うときは自分への憎しみと悲しみ、日ざしのなかへの最後のロングトーンは悲痛な願いを吐露する心の叫びみたいに聴こえた。
天国の光は曲をあまり把握してなくて曖昧な記憶だけど、高音をまろやかに響かせてくれて、耳触りがとても良かった。
石になろうは、ハイトーンがスコーンと当たってグッときてたまらなかった。
今あらためてサントラで聴いてみると、小さい子が泣きすぎて気持ち悪くなっちゃってそうな感じに似てる。
もういっぱいいっぱいではち切れそうで、でもそれが外に放出できずに自分の内へ内へ籠っていくような、最後の方で緊張感のあるトランペットの高音とダークな低音の落差が凄まじい音楽とのリンクに思える。

声といえば、カジモドとして発した最初の喋り声は、失礼ながらビートたけしに聴こえたし、いまサントラを聴いても似てると思う。笑
あと、声のほかに印象的だったのは、カジモドと役者の変身ぶり。
舞台中央に出てきてものの数秒でカジモドになるわけだけど、くるりと振り返るところが、ディズニーアニメでヴィランズに呪いをかけられてしまったキャラクターかのように見事な振り返り方(ターンの仕方)だった。
私には呪いをかけるヴィランズの細くて黒くてシワシワで骸骨みたいな手が見えた気がしたくらい。

今思うと「ノートルダムの鐘が好き」は間違ってないけど、「海宝さんがカジモドを演じるノートルダムの鐘がすごく好き」がより的確。
海宝さんについても「海宝さんの歌声が好き」よりも「カジモドを演じる海宝さんの歌声が好き」が最も的確。
海宝さんの歌が好きなのかノートルダムが好きなのか、それを確かめにフレンズオブディズニーやミュージカルミーツシンフォニーやレミゼに行ったりしてみた。
impressivesounds.hatenablog.com

もちろんどの曲も丁寧で情感あふれる歌で素晴らしかった一方で、ノートルダムの劇中で聴いた彼の歌がやはり一番心奪われた歌声だった。
そしてこれは私の好みという意味で、2017年年明けに観たときの声が一番好きだったので、発売されたサントラはその頃の声に近くて本当に嬉しい。
海宝さんの歌声は、カジモドを経てどの音域も声の幅が広くしっかりしたように私には聴こえて。
それは素晴らしいことだけど、個人的にはノートルダムサントラに収録されている頃の、少し高音寄りで声の揺らしも少なめの真っ直ぐ寄りな歌い方が一番好きな歌声。

インタビューとか見てると「声帯を~」とか「どこの筋肉を使って~」とか言っていて、出したい声を出すために自分の体を楽器のごとくチューニングしてるのもよくわかる。
寄りで映ってるレミゼ2015のお披露目動画とか、口や顔全体をアスリートのように動かしてるのがわかりやすい。
ノートルダムのサントラだと、先述の泣き呻くような声もそうだし、かすれさせるような声も出してる。
なんと芸が細かいことか。
時々iの音、特にkiとかを息たっぷりに歌うところはちょっと好みじゃないんだけど、それさえも言葉を無下にしない彼らしさかなと思えてくる。

好きになった歌声とは今は少し違うかなと思っているけど、また新しい歌声を聴かせてもらえるかもしれないし、これからもこの方の歌には注目したいと思う。
残念ながら、7月のバースデーライブもバンドのライブも、チケットが取れなかったけど。。

あぁ、好きなことを文字で表現するのって本当に難しい。
海宝さんの素晴らしい歌の魅力の5%くらいしか書けてない気がします。

英語の耳触りの良さは偉大:レ・ミゼラブル 6/3マチネ

国内外でミュージカル観てるけど、どちらかというと海外行ったときドサッと観るタイプで、国内のものを月1くらいで観てるのはここ数ヶ月くらい。

『Les Misérables』 5/25(木)初日カーテンコール

レミゼは映画は何度も、生はロンドンで1度だけ。
というわけで、初めての日本版レミゼかつ初めての帝国劇場。
ロビーに飲み物食べ物がたくさん売ってて、物販も何ヵ所もあって、そういうのがシアターオーブみたいな感じじゃなくて歌舞伎座の地下っぽい感じがして、レトロだなぁと思った。

間近で観るより全体観るのが好きだから、でもB席だとどれくらい遠いのか端なのかこわいから、とA席を選択。
コンビニで発券しないと座席未定方式で、発券してみたら1階最後列であるX列でさすがに落胆。
とはいえ座ってみたらそんなに悪くない。
そこまで遠くてちっちゃいとは思わなかったし、左右端になると横方向の見切れはあるんだろうけど真ん中だから大丈夫だし縦方向の見切れもないし、後ろが壁だから見やすいところに頭動かすのも遠慮要らない。

さて、中身。ダイナミック<お上品にまとまってる感 でありながらも、生オケはやっぱ良い。
たぶんオケのテンポの問題じゃなくて上演時間が決まってるせいだろうとは思うけど、矢継ぎ早に進んでいく感じはちょっと残念だった。
正直余韻に浸る暇なんてないし、なんなら話についていくのがギリギリなところもあった。
あと、英語詞で先に聴いてしまっているせいか、日本語の音の悪さとか訳詞の古風さが何度も気になってしまった。
日本語だと意味が仔細にわかる分、必要以上に伝えようとしていることを言葉として咀嚼してしまうことも「重すぎる」ストーリーに感じる要因かも。
舞台装置は、家のベランダとかいろんなものがすぐせりだしてはすぐ引っ込むので、手が込んでるなぁと。
基本的に舞台が暗くて、人の表情もよく見えなかったし、舞台装置の細かいところも見えなかったけど、たぶん細々色々あったんだろうなという気配はあった。
衣装にはもともとあまり興味がなく詳しくもないので特別感想はなし。

この日のバルジャンは吉原さん。
ハイトーンがわりと出る方みたいで、音程も適度に合わせていて聴きやすくて良かった。
背が高くてかっこいいなと。
ジャベールもやる方のようなので、衣装はそちらのほうがより長身が活かされて素敵かもと想像。
彼のせいではないけど、バルジャンが逃亡してタイトルが映し出されるまでがめっちゃ早かった。
「バルジャンもう逃げたんかいな!」と思った。
全体的に歌にクセがなく歌詞としても聴き取りやすくてありがたかったけど、遠目だったので老いていく様?はよくわからなかった。

ジャベール川口さん。
ジャベールって冷徹さを出そうとすると一本調子になりそうだし、でも自分の正義感におさまってくれないバルジャンに対する苦悩も出さなきゃだし、難しい役なんだなと。
川口さんはきっと歌はうまい方なんじゃないかなと思ったものの、歌詞が聞き取りづらくて少し話を追うのに困った。
下水道のあと、死ぬ前の心情を吐露するあたりはとてもバルジャンに対する苦悩が伝わってきた気がした。
全体的に、融通が利かなくて気難しいジャベールのキャラクターっぽさはわかった。
ジャベールの自殺は映像を駆使してて「なんかすごい」けど「(自殺だとは)なんかよくわからない」という感じだった。
ロンドンで観た演出がどうだったかは忘れたけど今回ほど疑問を覚えた記憶はないので、ここも今回わかりにくかったなと思った箇所かな。

ファンテーヌ、知念さん。
一緒に行った友人と「アイドル?タレント?ふつうにTVとか出てたよね」とキャストボード見ながら懐かしく話した。
すっかりミュージカル女優さんとして活躍されてたんだなぁ。
まず、セリフのような歌い出しですごくきれいな声で感動した!
今回一番「声」そのものにきれいさを感じてハッとしたのは彼女かも。
鈴のような声、風鈴のような、凛とした声。
でもソロナンバーではピッチが上振れて聴こえてなんかしっくりこないのはなぜだろう。
バルジャンに看取られ息絶えるところでホロリ。
娘を残していく無念さ、娘を育ててもらえると約束してくれて夢のような気持ち、どちらも伝わってきた感じ。

エポニーヌ、昆さん。
美女と野獣の吹き替えですっかり「わかる人にはわかる」人になったみたい。
私はまだ観てないけど。
思っていた以上に小柄な方で、照れ隠しにマリウスに飛びついたりするから可愛らしい女の子くらいに見える。
on my ownは安定感があったのだけど、一幕二幕通してあまり余韻に浸っている時間がないせいか、ちょっとあっさりな気もした。
遠目なので細かい表情は見えなかったけど、マリウスにコゼットへの手紙を託されるときの失望感みたいなものが、がくんと落とされた肩と消えた笑顔で表現されていたように見えて切なかった。

マリウス、海宝さん。
レミゼは音楽好きだけど、マリウスは腹が立つし話は悲しくつらいから…と迷ってたけど、この人の歌が聴きたくてチケット取った。
やっぱり歌がほんとにうまい。
生まれてきてくれたことに感謝したくなっちゃう。
もちろん歌うだけでなくて「演じて歌う」ことが上手なんだと思う。
見た目はいかにも品のある青年、キャラクター的には誠実だけど恋には少し疎い様子があって、とても魅力的。
初めてマリウスに惚れるのが腑に落ちたし、エポニーヌの気持ちに絶妙に気づいてないというのもこのマリウスなら有り得るなと思わせる人柄だった。
コゼットに出会った時点ではへっぴり腰だったりしてちょっとヘタレ感あるのがまたリアル。

コゼット、エポニーヌとの三重唱は意外と印象が薄くて、A Little Fall of RainとEmpty Chairs at Empty Tablesのほうが印象的。
血だらけだ!のあたりの嘆くように歌っているところ、「歌って」いるんだけど、エポニーヌに「喋って」いるように聴こえて、声の演技ってすごいなと。
あと海宝さんはハモリの裏声をすごくきれいに響かせてくれるので耳心地がとても良い。
ずっと革命の名のもとに戦うことが自分事として捉えられてなかったように見えて、エポニーヌが亡くなった後から動きが機敏になってヤケクソに近い感じで戦っているように見えた。
Empty Chairs at Empty Tablesの嘆きと懺悔の入り混じる歌唱は、なんか得意な部類の歌なのかなと。
ただどうしても日本語の違和感があって、「イスとテーブル」の「テーブル」をはっきり言っているのがしっくりこない。
これは海宝さんのせいではないけど。
「ディズニーランド」を「デズニーランド」と言ってるレベルでの違和感。
あと全体的にエポニーヌが「(エ)ッポニーヌ」と聴こえるのだけど、興奮したさまってことなのかな?それとももともとの歌詞かな?

コゼット、生田さん。
レミゼの衣装ってダサいと思うのに可愛かった!
コゼットって邪魔しない程度にそこそこ歌ってくれればいいので、彼女はそれを満たしてくれたしマリウスに惚れられるほどの外見の説得力もあったので良いキャスティングだなぁと。
地声で言えばどちらかというと少年声かなとも思うけれど、裏声になっていけば気にならないし。

エナルディエは駒田さんという方?
キャラクターとしては正しく演じていたんだと思うけど、いかんせんとにかく何を言ってるのか歌ってるのか聴こえなかった。。
マダムは谷口さん、声ににごりが少なくてきれいな声だなと思った。
なので、そのきれいな声でも歌い方と身のふるまいでマダムっぽい独特の雰囲気を出せることがすごいと思った。

アンジョルラス、相葉さん。
正直歌はあまり印象に残っていないけど、スタイルが良くて舞台映えする方だなという印象だった。
ただ、ロンドンで観たようにバリケードの場面で盆が回っていなかったので、彼が台車で運ばれるのが残念で残念で…。
なんだかツボをおさえられずに笑ってもらえないショートコントみたいにも見えた。
ただ一方で、台車で運ばれてるほうが、かっこよくバリケードで死ぬよりもあっけなくて虚しい感じはよく伝わるなとは思った。

そして最後にガブローシュ、島田くん。
正直今回のMVP!めちゃめちゃうまくてびっくり。
歌の音程がちゃんと当たっているし、なんて歌詞だったかとか、何の話か身振り手振りでちゃんとわかる。
キャラクターとしてそんなにふり幅大きい演技が要らないというのもあるかもしれないけど、民衆の中で強がる子どもというのがよく伝わってきた。
ちゃんと子どもらしいんだけど、将軍の死を告げるところなんかはいっちょまえに大人っぽいし、撃たれる最後は等身大の子どもの声に聴こえる。
もう少し大きくなったタイミングで、島田くんがたくさん聴ける作品とか出るようになったらぜひ観たい。

全然まとまらないし、「印象的な音について書く」とか言っておきながら音があまり記憶になくて演技の話を書いてたりするので、気が向いたら追記・修正するかも。
レミゼは曲が良いけどWickedやノートルダムのように何度も観たい!とは少なくとも私は思わないかなぁ。
冒頭にも少し触れたけど、やはり英語詞で作曲された曲は英語詞で歌われるのが一番素直に染み込みやすいなぁと思った。

【キャスト】
ジャン・バルジャン 吉原光夫
ジャベール 川口竜也
ファンテーヌ 知念 里奈
エポニーヌ 昆 夏美
マリウス 海宝 直人
コゼット 生田 絵梨花
テナルディエ 駒田 一
マダム・テナルディエ 谷口ゆうな
アンジョルラス 相葉裕樹
ガブローシュ 島田裕仁