Impressive Sounds

素敵な歌声や音楽を求めて。

タイトルロールはシャルロットだったかも:ウェルテル@新国立劇場オペラパレス 3/21

どうしても音源あるものよりライブなものを先に書くことになってしまう今日この頃…忙しいのもおさまらなくて。

さて、年に1回もしくは2回くらいのスパンで行きたくなるオペラ。気が向いてふっと行くタイプなのでもちろん今回も初見です。そんな「ウェルテル」。


新国立劇場オペラ「ウェルテル」 Werther, NNTT


【キャスト】
ウェルテル:サイミール・ピルグ
シャルロット:藤村実穂子
アルベール:黒田 博
ソフィー:幸田浩子
大法官:伊藤貴之
シュミット:糸賀修平
ジョアン:駒田敏章

合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:多摩ファミリーシンガーズ
管弦楽:東京交響楽団

【スタッフ】
指揮:ポール・ダニエル
演出:ニコラ・ジョエル
美術:エマニュエル・ファーヴル
衣裳:カティア・デュフロ
照明:ヴィニチオ・ケリ
再演演出:菊池裕美子
舞台監督:大仁田雅彦


「若きウェルテルの悩み」をもとにしたマスネの作品。オペラや文学に明るくない私でもついていける、シンプルでストレートなお話に見えた。あらすじはこちらに。
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/werther/

オペラって時に登場人物たちの感情や行動に全然ついていけないことがあって、それってとても古風な思考・発想・それから宗教観によるものなのかなぁと思ってた。だから今回ウェルテルにもシャルロットにも感情移入しやすくて、現代劇を観てるような気分に。

ハコは新国立劇場オペラパレス。お値打ちな3階バルコニー席はけっこうステージから遠く高いため、今回はいつも以上に視覚情報少なめ、音と声にフォーカスして感想を。

まずオケ。弦の人数が潤沢だったのか、そもそも奏者たちが息ぴったりだったのか、それとも音響なのか?弦の一本一本の音は聴こえるタイプではなくて、複数人の弦の音が融合していて弓の行き来もなめらかな、まとまった音だった。わざと悪い言い方をするなら、エレクトーンでバイオリン弾くときみたいな感じ。

ピッチが~とかいう話ではないのでこれはもう単純な好みなのだけど、個人的には弦の音の粒が多少耳で拾えるほうが好きなので、その部分でいうと去年「ローエングリン」に行った上野の東京文化会館のほうが好きな音かもしれない。

そしてタイトルロール、ウェルテル。今回この役をピルグさんが演じること、シャルロットを藤村さんが演じること、この二つが目玉だったよう。実際、YouTubeでウェルテルの歌のシーン(演者はピルグさんではない)見て「行ってみよう」と思ったので、楽しみにしていた。

どちらかというと内向的な人物描写をされてるウェルテルにふさわしく、鋭さや迫力を押し出すというよりもまろやかでマイルドな美声だった。癒やしを感じる声。ウェルテル登場前に男性3人が歌うのだけど、ウェルテルが歌い出したらやっぱり頭抜けて素敵な声~という印象。

時々なぜか音量が沈むところがあったり、若干ロングトーンが物足りない感じがしたりは多少あり。ラの音(って書くとださいけど他になんて書いたらいいのかわからない…)でのクレッシェンドは得意みたいで、音の最後のクォーターでブァッと広がる。楽曲の音域のせいか人物設定のせいか、憂いのある感じも声や佇まいに感じられハマってた。

しかし、その後のシャルロットの登場で正直ウェルテルが少しかすんだ。それくらい、シャルロットがすごく素晴らしい歌で…!しっかり声が飛んでくるのに、鋭角なところは全然ないからうるさくないし聴きやすい。そしてなによりとても品のある、美しい声。

美しい声というと、わたしの中ではアリエルやムーランやジェーンの声をされてた、すずきまゆみさんが筆頭なのだけど。それをオペラ仕様に変換して落ち着きと品性をさらに増し増しにしたイメージ(伝わらないかと思いますが)。

藤村さん、海外の名だたる劇場で主役をいくつもやってこられた方のようで、経歴観てたらもはや海外からの逆輸入という感じ。シャルロットはソフィーのお姉さんなわけだけど、藤村さんの実年齢もあるのかかなり控えめで落ち着いていて、引きで見ていると年の離れた姉妹か母娘という印象。

第三幕でウェルテルからの手紙を読むシーンがあり、シャルロットのかなりの見せ場なのだけど、ここが私個人としても会場としても一番盛り上がっていたと思う。「素晴らしいパフォーマンスみてるー!」という意味で。あまりにも完璧そうなのに1,2箇所少し音が「?」となったところがあったのが意外なくらいだった。

タイトルにも書いたように藤村さんの素晴らしさがピルグさんより目立って感じられたので、人によっては「バランスが悪い」と思ったかも。でも個人的には藤村さんクオリティがとても良いと思ったし、そこに合わせるように全体が引き上げられていくのだとしたらそれはそれでOKではないかなと考えた。ピルグさんの内向的で憂いのあるウェルテルも好印象だったし。

さて、シャルロットの妹、ソフィー。席的にかなり引きで見ているのでお顔や衣装はあまりよく見えなかったけど、登場前から揺れるポニーテールがずるいと思った。もうそれだけで可愛い妹の雰囲気ばっちり笑。オペラって今まであまり演技を前に出した演出に出会ってなかったせいか、今回はどの人物も演技がしっかりあって見やすかった。

ソフィーを演じた幸田さん、すでに書いたように天真爛漫さがあって明るい妹としてよく描かれていた。ただ、ちょっとビブラートが大きくて多めだからか、シンプルにストレート寄りなメゾソプラノのシャルロットに比べると聴きづらい声に聴こえたかな?せっかくちゃんと声出てそうなのに、音が飛んできてない気がした。でもこれ、ソプラノの人に思うこと多い感想だから、もしかしてソプラノ歌唱をわたしがちゃんと聴けてないだけかもしれない。

あとはシャルロットの夫、アルベールは黒田さん。この日の男性陣ではダントツに好きな声だった。音域のせいかすごい「いい男」感がして!ダンディ、と表現しようと思ったけど、声のかすれたざらつきはないんだよな。でも重量はある感じ。ウェルテルとシャルロットのやりとりを知ったときの激昂も、いい意味でとっても怒りを感じる迫力だった。

他にも登場人物いたのだけど、メイン4人はこんな感じ。この4人のいずれも、「歌う」だけでなくて「演技」や「歌を通しての演技」をしていた気がする。これまで見たことあるオペラって「ストーリー付きの歌」のほうがイメージが近くて、鑑賞後はコンサート感覚だった。それが今回、オペラで初めて感情移入ができたし、鑑賞後の感覚は「ミュージカル」に近かった。どちらが良い悪いとかではなくて、新しい感覚を覚えることができたのが楽しかった!

書くのが最後になってしまったけど、あと2公演あります。3/24と3/26。特に藤村さんの声は素晴らしいと思うし、どちらかというと海外のご活躍が多そうで次いつ日本で歌われるかわからないから、少しでも気になる方はぜひに。藤村さんのコンサートなんかがこの先あったら、私も行ってみたいなぁって思っています。それくらい大収穫な「ウェルテル」でした。